蒼の奔放 | ナノ

R-16
高杉保健医と、高校生神楽ちゃんに神威くん






保健室のドアを開けると、鼻に付く潔癖そうな薬品の臭いと、それとは似合わない甘ったるい女の喘ぎ声が聞こえ、神楽は思わず舌打ちをした。


まったく、お盛んアルな。
毎度毎度、この保健室で行われている情事に出くわす己の運の悪さを盛大に罵ってやりたい。うぅ、胃がもたれそうだ。

胃のあたりを摩りながら手慣れたようにガラス棚から薬品を拝借し、先ほどの体育で擦りむいた膝にぶっかけた。
ぶくぶくと生産される酸素を眺めながら、この酸素が地球温暖化に歯止めを掛けるのだ、と馬鹿な思想を浮かべていると、とうとう行為の佳境に入ったのか、女の声とベッドの軋みが激しくなった。
本来、この膝の治療をすべき保健医の、獣のように腰を振る姿を思い浮かべると、一人、ニヤリ口元が上がる。

「ふっ‥…、」
(ぷくくくくっ、‥ふ、吹き出すとこだったネ!)

断続的に甲高い女の声が響く。
一際高い声の後はベッドの緩やかに軋みも聞こえなくなっていた。


とうとう終わったようだ。そんなことを考えながら、適当に抜き取ったティッシュで傷口を拭き取り、四角い絆創膏をぺたり、はりつける。
よし、完了!
さてさて、体育に戻るとするか。まだまだ、あのサドやろーとの決着が着いていない。


「オィ、」

丸イスから立ち上がり、意気揚々と体育館に戻ろうとしたら、底冷えする男の声に呼び止められた。

「‥…何アルか?」

振り返ると、白衣の下に開けたシャツの隻眼やろーが立っていた。
あ、よかった下穿いてる。さすがに、のーぱんだったらフルボッコは確定だ。教育委員会にでも突き出してやる。


「入って来んなら声かけろ」

どこか苛立ちを見せる男は、ただでさえ目付きの悪い片目をさらに吊り上げ、睨みつけている。

「別に気にしな「ひ‥、きゃぁぁぁあああッ!!!」」

さっきの絶頂時よりも甲高い爆音が保健室にこだました。驚いて呆けていると、いわゆる"清楚系"の女の子が乱れた制服もそのままに、保健室から飛び出していった。
(あー‥、となりのクラスの宮下さんネ…‥)

まさに、あの世界陸上もビックリの駿足である。


「オマエ、趣味変わったアルか?前まではムチムチのお姉様系だったのにナ!」

ついに清純系にも手を出したか。
いつか刺されそう。まぁ、そうなったらご愁傷様、ということで。手当たり次第に食い散らかすこの男に、情けはまったく無用である。


「んじゃ、仕事しろヨ〜」

なんだか怒っている保健医を片目に、足を進める。
早く戻らなくては。体育が終わってしまう。そんな想いが頭を過る。

「待てよ、」

思ったよりも近くから聞こえた声に背後を振り返ると、ふいに腕を掴まれた。

「オメェのせいで、集中仕切れなかったんだぜェ…?」

腰に回された男の腕に力が入る。引き寄せられた身体が余熱の残る男の肌に触れて、その不躾さに眉間へ皺が寄った。

「いやいや、そんなの知らないアル。新しい子でも探して来いヨ」

手足を使って暴れてみても、拘束する男の腕が的確に押さえ付けて、自由に動けない。

(うぉ、マジアルか…って)

「ぅわっ‥」

急に浮いた足元に冷や汗が出て、男の白衣を握り締めた。

「っ、‥…」

横たえられたベッドは、先ほどまで使用されていたもので、これでもかと言うほど情事の残り香に満ちていた。
お盛ん過ぎる、この保健医。女の子なら誰でもいいのか、節操なしにもほどがあるヨ!

(コイツ、神威と同類ネ‥)

我が家のお兄様こと神威も、コイツに負けず劣らずの節操なしで、日毎に違う女の子を家に連れ込んではヤッてのけるのだ。おかげでこちらは変な耐性ができてしまった。

「考え事とは余裕だなァ」

男の吐息が耳朶に触れる。
固まる身体に男が体重をかけて押さえ付ける。

「ん‥…、」

熱い手が体操服を捲り、曝された腹部を撫で回る。肋骨からヘソの下をするりと撫でられ、知らず膝が震えた。

「慣れてんのかァ、こういうの」

男の低音が耳元で囁かれる。

「はぁ?」
「人がヤッてても顔色変わんねェし、‥今だってお前、恥ずかしがってねェだろ?」

それはアレだ。
バ神威のせいだ。

「だって今さらだし、」
「‥…"今さら"ぁあ?」

あんな不健全な兄貴と何年過ごしたと思ってる!
これはもう、慣れというか、達観に近い。

「歩く18禁と一緒にいれば、勝手にこうなるネ」

瞠目する隻眼に、ニヤりと笑いかける。どうだ、私の苦労人生は!と、なぜか勝ち誇ったような気分になった。
そんな私の思いとは裏腹に、保健医の表情に不機嫌さが滲む。薄い唇を歪める男は、さらに体操服を捲り上げて、昨日買ったばかりのレースのブラを外気に晒させた。
ぴくり、肩が跳ね上がる。

「ちょっ、やめ‥」

さすがにこれは恥ずかしい。てかセクハラ変態、さっさと退けヨ!

「いいじゃねェか、"今さら"なんだろ」

そう言って、レースのブラの下から温かい生肌を片手に収めた。

「っあ、」

ぴくり、肩が跳ねる。

「まっ、‥〜〜っ゙、ぅぁ!、ん」

ゆっくりと形を確かめるように、保健医の手の平が包み込んで、時たま指先が頂上を掠める。

「ぁ、やだぁ‥っ」

ぴくん、その感覚に身体が跳ねた。頬に熱が集まって、足先が震える。冷や汗がこめかみに滲んだ。

ヤバいヨこの保健医。
てか、重いっ!
なにエラソーに可憐な少女の上に乗ってるアルか!

そう思うと腹が立ってくる。

「ちょ、退くヨロシぃぃぃぃぃぃいッ!!!」




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