無意識の愛おしさ | ナノ
真夏の太陽が手加減も知らず、その熱を撒き散らす。
公園のベンチに置いた隊服は漆黒のせいできっと触れないだろうな、と思った。いや、この状況でそんな事を考えるのもおかしいか。
だって現在、俺の上にはチャイナがいる。藤色の傘先を向けるチャイナは、逆光のせいで顔は分からない。でもたぶん、笑っている、と思う。俺もチャイナも、戦う事が好きなのは今も昔も変わらない。
「私の勝ちアル。」
高いソプラノの声はやっぱり楽しそうだ。
「喜んでる場合、ですかィ?」
此方も負けじと鼻で笑う。見下されるのは好きではないのだ。
瞬時に躯を起こし、物騒な銃口の狙いをずらす。上にいるチャイナはバランスを崩したようで、地面に手をやり体制を整えている。
と、直ぐさま鋭い蹴りが。避けきれず、僅かに触れた左腕が痺れる。馬鹿力だ、こんなの。筋肉どころか脂肪だって、ないくせに。
「さすが夜兎、身体能力は見事でさァ。」
「オマエも、人間にしてはなかなかネ。」
傘を真上に向けて、藤色が天を隠す。何気ない動作なのは自分が見慣れたせいか。日傘なんて、この女には似合わないのに。
「あ゙ー、アイス食てェ。」
構えていた刀を鞘に戻す。暑苦しいスカーフも取って、近くの木陰に避難した。
「逃げるのカ?」
「誰が、…‥休憩にしやしょう。アンタだってキツいんだろ?」
何処が疲れたような、彼女の無表情の瞳を見て、意外とヤバかったのかと内心ヒヤり。心なしか、顔が蒼白い気がする。
「アイス、奢れよナ。」
「1個だけだぜィ…‥」
「ケチ、」
「うるせー」
邪魔な靴を脱ぎ捨てて、ぶらぶら木の枝から足を揺らす。棒に付いたアイスを味わいながら食べるチャイナは、機嫌が良さそうだ。
「今日みてェな日の勝負はヤメにしやしょう。」
木の幹に背中を預け、上に座る少女に目をやる。揺れる白い足が止まった。
「何で、」
「自分に聞きなせィ。」
「私は頑丈アルよ?」
「駄目」
「そんなの、「倒れられたら困るんでィ。」」
不服そうに尖らせる唇は薄く赤く色付いている。長い睫毛は瞬きの度に伏せられ少しだけ大人びていた。
「アンタもう16だろィ?」
「今年で17ヨ。」
「16、17の女が、そんなほいほい倒れて良いわけないって事、分かるだろーが。」
そう、倒れられたら困るのだ。自分だってまだ21になったばかりである。弱った女をどうする趣味はないけれど、少なくとも、気に入った奴だったら、色々考えてしまうじゃないか。此方だって、健全な男の子なのだ。
(襲うぞ、コノヤロー。)
葉の間から見える、うざったいぐらい輝く火の玉に、恨めしげな視線を送った。彼女の命を奪うような危険のある奴だ、バズーカで撃ち落としたって、かまわない気がする。
「助けてくれるでショ?」
「へ、?」
驚いて彼女を見遣ると、深海みたいな青の瞳が綺麗に光った。不意に、心臓が走る。顔が熱い。ヤバい。何か、分かんないけど。
「沖田が、助けてくれるアル」
無意識の愛おしさ
誘ってる?
何を?
神楽ちゃんに振り回される沖田君が好きです。
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