2. | ナノ short藤:「愛しきカノジョの愛しきセカイ」と同じ設定です。少しシリアスな百合ですので苦手な方はバックを。
(高)神(←)そよ
例えば、
白い頬を染め上げて、幸せそうに笑ったり。
海よりも青い瞳が、溶けかけた氷のように艶やかに輝いていたり。
貴女は私の心を、無意識に容赦無く占領して仕舞うのです。私はそれがどうしようもなく苦しくて、けれども同時に、狂おしい程までに、愛おしく、思っております。
「そよちゃん、‥本当に、行っちゃうアルか‥…?」
窓枠に座る彼女が、紅葉のように赤い夕焼けの光に包まれていたせいで、私はその美しい顔容の上の表情を伺い見ることが出来ませんでした。
「ごめんなさい、神楽ちゃん」
努めて、私は微笑むことにしました。だって、そうでもしないと、とても堪えられそうにはないんです。
彼女との距離は、およそ3メートル。いつもはもっと、側にいるのにね。本当に、ごめんなさい。今日だけは少し、難しいわ。
「‥…そよちゃん、」
「はい、神楽ちゃん」
「来てヨ…‥、」
細い両腕が左右に開かれ、待っています。私が、そこへ行けると思っているのですか、神楽ちゃん。そんなことをしたら、私はもう、貴女から離れることが出来ませんのに。
「無理、です」
「だめヨ、」
「出来ません、」
「っ、そよちゃん‥…、!」
嗚呼、そんな声で、呼ばないで下さい。私の心臓が、貴女への愛おしさで、潰れて仕舞いますから。
「どうして、‥何も言ってくれないアルか…‥?
どうしてみんな、私を置いてくアルかぁ‥…?」
私は明日、日本を発ちます。仕方がありません、父の仕事の都合なのです。急なことですが、中学生の私が一人で日本に残れる訳がわりません。私は何も、出来ないのです。
「どうしてヨ、…‥」
嗚呼、愛しい人。
私は今、貴女とその窓から、一緒に飛び降りたいのだと言ったなら、貴女は頷いてくださいますか。
―――ええ、頷くでしょう、神楽ちゃんは。
けれども私は、そんなことを許せそうにないのです。
「高杉先生が、いてくださいます」
隻眼の、私たちの担任。深い暗闇にいながらも、あの方の持つ篝火なら貴女を助けてくださいます。
だから、神楽ちゃん。
「きっと、大丈夫です」
貴女の優しさも、温かさも、孤独さも。本当は、私が全てを、愛してあげたかったけれど。私の篝火では、小さ過ぎたのでしょう。貴女を解放してあげられないのだと気付いてしまったようなのです。
だから、さよなら、です。
私からのお別れなら、幾分救われるというものです。だって、貴女からのお別れなんて、とても聞きたくは、ありませんもの。堪えられるはずなど、ありませんもの。
神楽ちゃん、
こんな友達でごめんなさい。
狡い友達でごめんなさい。
ごめんなさい、
こんなにひどいお別れをしているのに、私はまだ、貴女を愛しているようです。
10.11.18
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