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「せんせーは、世界が憎いアルか?」

女の声は簡素な教室には不釣り合いだった。


「空しいアルか?それとも、寂しいアルか?」

青い目がこちらを覗く。真ん丸の濡れた青。その周りを桃色の睫毛が無駄無く縁取り、真上に向かってカーブしている。何とも、日本人離れした顔容だった。


「さァな、」

秋の夕暮れ、教室は赤く染まっている。けれどもどうせなら、もっとド派手な赤が良い。この女がいつも着る、あのチャイナ服のような深紅の、赤。



「お前はどうだ、神楽」

木と鉄で出来た、見慣れた机に彼女は座っていた。細い脚が仄かに赤い。元は見事な迄の白さだが、それ故、他の色に覆われ易い。


「面倒で不都合で、嘘臭くて。
世界なんて我が家の兄貴並に最悪ネ」

だが、覆われて尚、白の威厳は消え失せない。それが白。世界に存在してしまう、理由。


「まぁでも、なかなか愛嬌もあるのヨ?」

「へェ、‥…例えばどんな、だ?」

女は笑った。
満足げに頬が上がる。


「私はそのためだけに、世界を愛してしまったアル。
どうやって責任取ってくれんだヨ、コノヤロー」


ゆっくりと、彼女から視線を外した。そのままだと、洗脳でもされちまいそうだ。


「逃げたナ、」

不機嫌に女は呟く。

「畜生、無駄な勝負はするもんじゃねェ」

勝ち目の無い勝負など、阿呆らしい、やってられるか。



「責任取れヨ、タカスギせんせー」

「孕ませたみてェな言い方すんな」


「孕ませれば良いアル」



清々しい程、いとも簡単に、女は言い放った。冗談じゃねェ、中学生相手に、有り得ねェだろ。
自分はこの女より、10歳近く年上である。全くもって、対象外、だ。なのに何だ、この様は。振り切れないでいる自分が、ひどく滑稽だ。










「せんせー、愛してる」













愛しきカノジョの愛しきセカイ。セカイはひどく滑稽で、ひどく、心地好い。
















後書き、

珍しく高←神です。ちょっと自信たっぷりの神楽ちゃんを書きたくなりました。

高杉は神楽ちゃんの中学の担任の先生で同じマンションのお向かいさんです。神楽ちゃんは喧嘩に女のどうしようもないお兄さんと一緒に暮らしてますが、時々お向かいさんの高杉先生の家にお邪魔もしています^^好きなだけごろごろして、いつの間にか居なくなってる。そんなふわふわした関係がこの後も続きます。くっつくのはまだまだ先になりそうです。


10.10.22




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