積もったものの大きさに、私は涙するでしょう。 | ナノ




雨上がりの夜は私の数少ない好き、だった。

アスファルトに広がる雨が電灯の明かりを反射する。幻想的、そんな言葉がぴったりで、人工の光もこの時だけは綺麗だと思った。
辺りの空気はとても澄んでいる。色んなぐだぐだしたものも全部何処かへ流してしまったみたいで私だけが、取り残された気がした。
それがひどく、心地良かった。


「何してんだ、」

甘ったるいキセルの匂いと、低く静かな彼の声。これもまた、私の好き、に入るもの。

「黄昏中アル、ほっとくヨロシ」
「随分と、つれねぇじゃねぇか」

「ふん、晋助には関係ないアル」

くつくつと咽で笑う気配に気怠い眼差しを向ける。一つ、狂気じみた瞳が見えて、此処にもあったのかと、ふと思った。





少しずつ、
私の好き、が増えてゆく。

それが怖いの、


なくした時を、知っているから。

だから、もう。
大切なものなど、いりはしないのに。








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