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▼ 陛下のひめごと

 ディミトリが王に即位して早半年が経った。
 ディミトリは即位と同時に王妃を迎えており、そうなると次に期待されるのは世継ぎの誕生である。王と王妃の仲睦まじさは周囲が知るところであり、いつお子が出来るのだろうと、皆が期待に胸を膨らませているのだが……

「まだ、一度も抱いていないと」

 ぽつりと漏らしたディミトリの呟きに、シルヴァンはやれやれと頭を振った。ディミトリと王妃は士官学校時代からの恋仲である。てっきりもう手を出しているものと思っていたのだが……

「執務が忙しかったんだ……仕方ないだろう」
「いやいや、陛下。仕方なくないです。時間なんて仕事の量を調整すれば、少しぐらいは作れるでしょう。何やってるんですか、あんた。せっかく娶った王妃様と離縁したいんですか」

 罰が悪そうに言うディミトリに対し、シルヴァンは容赦ない言葉を投げつける。学生時代、ディミトリと王妃となった彼女の仲ををとりもったのは、他ならぬシルヴァン自身だ。今の状況は友人として、男として、けして見過ごせるものではない。

「離縁など!」
「陛下からはしないでしょうね。でも夫に抱いてもらえない王妃様はどうでしょう? 愛想つかして陛下の元から出て行くかもしれませんね」

 言葉に詰まるディミトリの顔は深刻そのものだ。ディミトリに心底、骨の髄から惚れ込んでいる王妃様が、離縁を切り出すことはないとシルヴァンは知っているが、これぐらい言わないとディミトリには駄目なのだ。

「……もしかして、王妃様を抱けない理由でもあるんですか」

 ふと思いついた可能性を口にすれば、ディミトリがふっ……と視線を逸らす。……なんてこったと、シルヴァンは天を仰ぐ。まさかディミトリが男の機能に損傷があるとは! それでは愛しの王妃様を抱いていないのも仕方がないと、シルヴァンが一人で勝手に納得していたところ、ディミトリがぽつりと呟いた。

「……加減がきかずに、あいつを抱き潰してしまうのが怖い」

 シルヴァンはディミトリを見つめる。ディミトリの顔は真剣そのものだ。しかしシルヴァンの口から笑い声がこぼれ出た。

「わ、笑うな! 俺は真剣にあいつの心配をだな、」
「俺に今言ったこと、王妃様にも伝えてあげると良いですよ。王妃様もきっと、俺と同じように笑い飛ばすでしょうから」

 

2019/09/07
2019/09/30(拍手より再録)

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