▼ どこにもない心臓のゆき先
心がないのだと言われた。
表情が変わらないから。
感情を揺らさないから。
心臓のない人形だと、私は言われ続けてきた。
「そんなことはないだろう。今、俺と話しているナマエは緊張している。違うか?」
殿下の言葉に、私は驚きを覚えた。表情にはでないのだけれども。
確かに私は今、緊張している。
当然だ。自国の王子と話しているのだから。私のような下位の貴族の者からすれば、殿下は雲上の貴人で、気安く言葉を交わせる間柄ではない。
だというのに、殿下は私のような者にも気安くお言葉をかけてくださる。しかも私の心の内までもお見透かしなのだ。驚かずにはいられない。
「俺はナマエとも色々な話をしたいと思っている」
だからそう固くならないでくれ、と殿下は笑う。
私は笑みを返せなかった。
けれど、『ない』といわれ続けてきた心臓がどくりと大きく脈打った。
20023/10/25
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