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▼ 愛してるを傷にしたい


「好きよ。ユーリスが、いちばん好き」

 わたしがそう言うと、ユーリスは困ったように眉を顰めた。微笑もうとして失敗したその顔ですら、美しい。
 こほ、とわたしの喉から咳がひとつこぼれ落ちた。
 するとユーリスは天地がさかさまになったかのような慌てぶりで、わたしを寝台に横たえる。

 「だいじょうぶだよ」

 ただの咳だから、と言っても、ユーリスはわたしの言葉を信じてはくれなかった。
 無理もない話である。
 医師が匙を投げる死病にわたしの体は侵され、命の炎は細くなるばかり。宣告された余命を超えてなお生きているのは、ユーリスがあれやこれやと必死に手を尽くしてくれているからに他ならない。
 今、この瞬間にだって、息絶えても不思議ではないのだ。

「愛してる。だから、まだ、そばにいさせてね」

 ユーリスの綺麗な顔が、歪む。怪我をしたかのように、痛みを堪えるかのように。
 わたしは、身のうちからわき上がる昏い愉悦に、微笑んだ。

 愛してる。
 愛してるの、ユーリス。

 わたしが死んでも、わたしの想いが傷となって、あなたに残り続ければいい。



 2023/10/14

 

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