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▼ ひたむきな天使たち

 
 彼女の華奢な手には、武具はふさわしくないと、常々スタルークは思っている。

「僕なんかが言うのはおこがましいですが、無理をしすぎではないでしょうか」

 勇気を出して声をかけてみると、彼女は槍を振るう手を止め、振り向いた。

「お気遣いありがとうございます、スタルーク様。けれど、わたしはまだまだ未熟者ですから」

 微笑む彼女には軍装よりもドレスが似合うし、長尺のある槍は不似合いだ。けれども困ったことに、彼女は軍装も颯爽と着こなし、槍は国でも有数の使い手である。

「……あなたは、未熟者なんかじゃないです。とても努力家で、強い人です」
「スタルーク様にそう仰っていただけるなんて、嬉しいです」

 花のような笑顔が綺麗で、スタルークは彼女から慌てて目を背けた。眩しくて直視できない。その笑顔は自分のようなものに向けられていいものではない。たった一人の特別な人に、向けられるべきものだ。

「でもわたしは、もっと強くならないといけないのです。お守りすべき方のために」

 彼女が『守りたい人』をスタルークは知っている。敬愛する兄のディアマンド。彼女にとって、ただ一人の特別な人。自分の想いなんて、彼女の心の入る余地もない。

「……じゃあ、僕はあなたを守ります。あなたが傷つくと、悲しむ人がいますから」

 兄のディアマンドにとっても、特別なただ一人。
 そして、スタルーク自身にとっても唯一の人である。
 想いは口にできないけれど、後ろからこっそり守るぐらいは許されるかもしれない。

 スタルークは彼女に微笑んだ。
 声にできない言葉を、ぐっとのみ込んで。



 2023/10/13

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