▼ 春の獣
「……アルフレッド様……」
わたしを組み敷くその人の顔に笑みはなく、瞳はぎらぎらと、獣のような欲を滲ませている。
からだの内側から、ぞくりと震えがきた。
恐れや恐怖からではない。
歓喜の震えだった。
わたしは、この方になら、全て貪られたい。むしろ貪りつくしてほしいと願っている。
「――ナマエ、逃げるなら、今しかないよ」
色欲に満ちた目を眇めて、アルフレッド様が呟く。
わたしはゆるりと首を振った。
「いいえ。あなたが望むままにしてください。それがわたしの望みでもあります」
わたしはアルフレッド様の首に手を伸ばす。
獰猛に笑んで、覆いかぶさってきた獣からは、春の花の香りがした。
2023/05/06
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