▼ いつでも泡になるために
微笑む顔が好きだった。
柔らかく名を呼んでくれる声が好きだった。
知れば知るたび、あなたのことを好きになっていく。
シルヴァンは私のことを邪険にすることは、一度もなかったから。
――好かれていると、信じて疑っていなかった。
けれども、他の学級の女生徒と軽やかに談笑して別れたその後。
シルヴァンは冷めきった瞳で女生徒たちの背を見つめながら、浅く息を吐きだして。
その瞬間に、私はふと、理解してしまったのだ。
シルヴァンは、女という生き物を、嫌っているのだと。
何も見なかったことにして、この場を去ろうとした私を。
「ナマエ」
――と、シルヴァンは私が好きな笑顔と声で名を呼び、近寄ってくる。
シルヴァンは、私のことを本当はどう思っているのだろう。
真実を問えば、きっと今の関係は壊れてしまう。
私は、作った笑顔でシルヴァンの呼びかけに応じる。
どうすれば、痛みを覚えず、恋心を消すことができるだろう。
(あなたが私を嫌うなら、泡のように消えてしまいたい)
2023/04/28
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