300文字チャレンジ | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 喪失に宿る青

 喉元に槍の穂先を突きつけられて感じたのは、恐怖ではなく安堵だった。

 ――あぁ、これでやっと終われる。

 思いが声に出ていたのだろうか。
 私の喉に槍を突き立てようとした男の、かたちのよい眉が顰められた。男はよく見れば、ずいぶんと身なりの整った男であった。身に纏う衣装も武具も上質のもので、おまけに顔立ちも良い。名のある将軍なのだろうか。

「殺さないのですか」

 ぴくりとも動かない槍にわずかばかりの苛立ちを覚えながら、男に声をかける。

「お前は死にたいのか?」

 男の声は天気を問うような気安さだった。

「そうですね、死にたいです。色々ともう、疲れたので」

 ヴァルター様の配下になってからずっと、心と身体を削りながら戦場に立っていた。もう、限界だった……死んだほうがいい、と考える程度には。

「――そうか、分かった」

 男の声に目を閉じる。身体を襲うであろう痛みと衝撃に備えたが、それらはいつまでもやってこない。
 おそるおそる目を開ければ、男の碧空のような瞳が私を見下ろし、手を差し出している。

「死ぬ命なら、俺に預けてみないか」

 男は、ルネス王国王子、エフラムだ――と、笑って言った。




24/01/01

prev / next

[ back to top ]