▼ 喪失に宿る青
喉元に槍の穂先を突きつけられて感じたのは、恐怖ではなく安堵だった。
――あぁ、これでやっと終われる。
思いが声に出ていたのだろうか。
私の喉に槍を突き立てようとした男の、かたちのよい眉が顰められた。男はよく見れば、ずいぶんと身なりの整った男であった。身に纏う衣装も武具も上質のもので、おまけに顔立ちも良い。名のある将軍なのだろうか。
「殺さないのですか」
ぴくりとも動かない槍にわずかばかりの苛立ちを覚えながら、男に声をかける。
「お前は死にたいのか?」
男の声は天気を問うような気安さだった。
「そうですね、死にたいです。色々ともう、疲れたので」
ヴァルター様の配下になってからずっと、心と身体を削りながら戦場に立っていた。もう、限界だった……死んだほうがいい、と考える程度には。
「――そうか、分かった」
男の声に目を閉じる。身体を襲うであろう痛みと衝撃に備えたが、それらはいつまでもやってこない。
おそるおそる目を開ければ、男の碧空のような瞳が私を見下ろし、手を差し出している。
「死ぬ命なら、俺に預けてみないか」
男は、ルネス王国王子、エフラムだ――と、笑って言った。
24/01/01
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