▼ 泡々のこの指とまれ
「御身は代えががないものだと、ご理解ください」
久しぶりの会話は、棘だらけの言葉から始まった。
戦闘で負った傷の手当てをしながらだろうか。久方ぶりの婚約者同士の会話だというのに、自分の口から出る言葉はお説教じみたものと、王族としてのあり方や心構えばかり。
言いたいことと、言わねばならないことを全て言い終えて、婚約者――エフラム――の顔を見れば、彼は苦虫をかみつぶしたかのような渋面である。
エフラムの表情に、胸が痛まなかったといえば嘘になる。
でも、言わねばよかったと後悔はしない。
王となることが定められているエフラムに、万一のことがあってはならないのだ。先陣をきって戦う彼の姿は勇ましく、兵士たちを鼓舞するに十二分ではあるが、何事にも限度はある。
「指切り、してくださいな。もう無茶はしないと」
小指を差し出せば、苦笑いしながら、エフラムが己の小指をからめてくる。
この約束はきっと、泡のように儚く消えてしまうものだろう。
それでもエフラムが形ばかりでも約束してくれたことに、安堵せずにはいられなかった。
2023/12/04
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