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▼ お願いに至る病

「ねぇ、お願い。万屋に付き合ってくれる?」
「えぇ、お供仕りましょう」

 粟田口部屋に集う刀たちの中、短刀の弟たちりも早く、審神者の願いに応じたのは、長兄の一期一振であった。

 本丸を出ると、審神者は並び歩く一期一振の顔を見上げる。供にと、名乗り上げてくれた一期一振は、女子が描くであろう理想の王子様っぷりで、審神者をエスコートしてくれている。弟たちと楽しい時間を過ごしていた邪魔をしたというのに、嫌な顔ひとつしない。

(これは、職権乱用なのだわ)

 審神者は心の中で呟いた。
 一期一振は審神者に甘い。
 そのことを知った上で、審神者は粟田口部屋に赴いたのだ。声をかければ、一期一振が必ず審神者の願いに応じるから。

(好きだって言わないから、困らせないから、……許して)

 神様に恋をしてしまったけれど、叶わぬ恋だと審神者は理解している。
 ささやかなお願いを口にしたときに、神様が応じてくれるだけで十分幸せだ。

「おいしい甘味屋さんができたらしいの。万屋の帰りに寄り道してもいい?」
「かまいませんよ」

 微笑む一期一振に、審神者はとびきりの笑顔で応じた。



 2023/11/06
 

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