紫@




「うーん…」



何が二人と違うのだろうか。色気というより血の気のない顔になってしまった自分に渋い顔になってしまう。
鏡に写る紫色の唇と手の中の紫の紅を見比べて思わずため息をつく。



父さんとカインさんが施している紫の色。男性なのに二人ともその化粧がとても似合っていてそしてそれがなんとも格好良く見えて先ほどこっそりと父さんの机から紅入れを失敬してきたのだ。わくわくと唇に伸ばしてみたものの二人と何が違うのか、格好良いとは程遠くゾンビの仮装の様に鏡に写るのはただの血色の悪い少年だ。



「なんかカインさんと違う…」



色こそ同じだがやはりああいう風に色気のある人でないと似合わないのだろうか。カインさんは髪が長いし父さんは童顔で中性的だからやはり似合う。僕は父さんの子なのに中性的とは全く言われないからその違い…?



「似合わないのちょっとショックだな」



単純に綺麗だなと見てしまうけれどこの化粧はバロンの武人の証なのだ。父さんは暗黒騎士から聖騎士になったらしいけれどこの化粧は変わらず施しているしカインさんも竜騎士から聖竜騎士になっても同じく紫色を纏っている。

戦いの多かったかつてのバロンでは一人前の武人になるとこの紫の紅が支給された。騎士たちはこれをつけて戦に行く。物騒な話だが戦いの最中倒れてもこの紫のおかげでバロンの騎士ということがわかる。身元がわからなくてもこの紫のおかげでバロンには、故郷には帰ってこれる。バロンで一人前の騎士と認められるとこの紫が支給された。戦いの少なくなった昨今、普段からこれを施している武人は少ないけれどそれでも未だに騎士となる者の憧れでもある。もちろん僕も。



貰えるのはまだまだ先だろうけど似合わないことが発覚してしまったのは少し寂しい。ため息をつきながら蓋を閉めようとした時だった。



「セオドア、いるか」



控えめなノックと低い声。跳ねる肩と一緒に空を舞った紅入れをなんとかキャッチして振り返ればもう一度ノックが響いた。



「セオドア?」
「い、います。もう少し待ってください」



慌ててハンカチで口元を拭う。拭ったそれに紫がついたのを確認してポケットに紅入れを突っ込んで急いで扉を開ければゆったりと壁に寄りかかって書類を捲るカインさんがいた。



「一人で騒がしい事だな」



フッと息で笑うカインさんに曖昧に笑って部屋に招き入れれば明日の予定で少し話があるとの事だった。すぐに行かねばならんと忙しそうなカインさんは勧めた椅子を辞退して扉の側に立つ。立派な上背なのにスラリとした細身だからか改めて見ても紫になんの違和感もない。立派な上背と素晴らしい剣、槍の腕。確かな作戦とその手腕。さらに見た目も美しいとは僕の理想とする騎士の全てが詰まっていて自分の恋人ながら強い憧れを抱いてしまう。



「…連絡はそんな所だな。あぁ、あと」



ぽけっと見つめていた僕にそう言うとカインさんはおもむろに僕の顎に手を伸ばす。



「隠すならもっと上手くやれ」



ぐいっと親指で口の端を拭われる。カインさんの指の腹に少しの紅がついて恥ずかしさに思わず目が泳ぐ。
ハンカチでその汚れた指を拭いながらカインさんはちゃんとセシルに返しておけよとかすかに笑った。何もかもお見通しといった感じだ。



「何も隠さなくても良かろうに。つけてみたいならそう言えばセシルも断りはせんだろう」
「…でも一人前の証だから怒られるかと」
「むしろ嬉しがるのではないか。近頃こんな化粧をしているのは俺とセシルとあとどれだけいるかといった所だからな」
「父さんとカインさんはどうして今もその化粧を?」



何気なく聞いた言葉だったが軽い笑みが返ってきただけで答えはなかった。代わりに僕のポケットのかすか膨らみをポンと叩くと自分の唇を指先で軽くなぞる。そのまま僕の唇をなぞった。



「理由はそれぞれだろうよ。…それにしてもセオドアは似合わんな」



促されるまま鏡を見れば先ほどよりは薄く唇が紫に色づいていた。隣に苦笑気味に立つカインさんは何回見ても紫が似合っていて僕とのその差にむくれながら知ってますと頬を膨らませれば上から微かに息だけの笑いが聞こえた。






















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