暑い日、熱い僕
【青年期】
「暑い…」
「水分はしっかり摂れと言ったはずだが」
僕の額に水で濡れたハンカチを乗せてカインさんは部屋の窓を全て開けていく。抜けるのは緩い風だが暑さに火照った僕の体には気持ちよかった。
「夢中になってたらつい。新しい剣を振るうのは楽しいですね」
「この暑い中ずっとでは俺でも倒れるぞ」
全く…とベッド脇に腰掛けるカインさんの手を取る。取った左手を自分の頬にくっつけると夏でも少しひんやりとした手が心地いい。
「お前相当熱いぞ」
「カインさんの手はこの暑さでも冷たいですね。冷え性ですか?」
いつも通り軽口を叩くと彼は馬鹿者と言って手を引っ込めてしまう。軽口を叩くと彼が合わせて皮肉を言ったり悪戯に笑うのが嬉しくていつしか軽口で場を混ぜかえすのが癖になってしまった。エッジさんには俺に似てきたと喜ばれたが父親や母親は少し驚いた風だ。
するりと逃げた手を慌てて追いかければ彼は少し口の端を上げる。
「ごめんなさい、カインさんもう一回」
「ハンカチを置いてやっただろ、それでも当てていろ」
「カインさんの手がいいんですよ」
笑いながら謝れば彼も猫と戯れるように手をあちらにこちらに避けてしまう。素早い手を捕まえるのは諦めて彼のほっそりとした腰に腕を回す。そのままぐっと引っ張れば飽きたのだろうかひんやりした手が僕の首元に投げ出された。
「いたっ」
「ご所望の手だ、満足か?」
軽く僕の首を叩いた手はそのまま首元を冷やしてくれる。戯れたせいか体の熱さがぶり返して僕はおとなしく目を閉じる。医務室の医師が言うには熱中症という症状らしく目の前がクラクラと揺れて体の体温が高すぎて怠い。
「あー気持ち悪い」
「さっきまでの元気はどこに行った」
フッと笑うと彼はベッドに深く腰掛ける。後ろからその腰に腕を回して彼の太ももに顔を押し付ければ首元の手が労わるように撫でてくれた。
「手の冷たい人は心が温かいそうですよ」
「それほどあてにならん迷信もないな。それが本当なら俺の手は燃えるように熱いはずだ」
「カインさんは優しい人じゃないですか。待ってカインさん、行かないで」
腰を浮かしかけた彼の太ももにより強く顔を埋めれば再びベッドが沈んだ。過去の戦いのせいかこの手の話題を嫌う彼だがカインさんは誰よりも優しいと思うのだ。気を回しすぎて誤解されてしまうだけで。
「…少し寝ろ。いつまで経っても回復せんぞ」
「カインさんも一緒に」
「子供じゃあるまいし」
「少しだけです。」
お願いしますと背中に顔を埋めればひとつの間の後ベッドに横になる。その彼の首元に顔を寄せて腰に手を回す。いつまで経っても甘えてしまう自分に少し歯噛みしつつ甘えたいのは具合が悪いせいだと言い訳して細い体を抱き寄せた。
7月8月お礼文でした