ハロウィン



「トリック・オア・トリート!」


毎年恒例のハロウィン。この日には各地のかつて父親と共に戦ったという仲間や王様が集まり盛大なハロウィンパーティーが開かれる。この日は無礼講で仕事はお休みだ。王宮もいつもの荘厳な雰囲気ではなくお茶目な顔をしたカボチャや色とりどりのお菓子で飾り付けられている。



「お久しぶりですエッジさん。トリック・オア・トリート!」



父親と話をしていたエブラーナの王様に声をかける。挨拶もそこそこに笑顔で両手を差し出した。



「久しぶりだなセオドア!俺からお菓子が貰えるのはかわい子ちゃんだけだぜ」
「お菓子をくれない人にはいたずらしますよ」
「俺にいたずらするなんざ10年早いな」



軽口を叩くエッジさんはニヤッと笑うとほらよ、と色々な形のチョコレートを手に乗せてくれた。
お前が女の子だったらいたずらも悪くないんだけどな笑うエッジさんに父さんは苦笑いだ。



「もう他のやつからも貰ったのか?」



僕のお菓子でいっぱいの籠を覗き込み彼は遠慮なしに中身を漁る。チョコレート、飴玉、焼き菓子と色々なものを楽しそうに発掘する。



「さっきギルバートさんがお花のキャンディをくれました。こっちの焼き菓子はリディアさんが。」



ひとつひとつ解説すれば彼は楽しそうに相槌を打ってくれる。こんだけあればしばらくおやつには困らねーなと笑う彼はふと視線を窓の外のテラスに移した。



「ところでセオドアよ。あそこで俺は関係ないって態度のあいつにはもう貰ったのか?」



視線を追えば窓の外、オレンジの外灯にぼんやりと浮かぶ金髪の後ろ姿が見えた。



「あんなところにいたんだ。探してたんです」
「どうも貰ってないのは奴が最後みたいだからな。」



お菓子なかったらガツンといたずらしてやれよーと豪快に笑う彼にお礼を言ってテラスに出る。
外へ出る扉を閉めてしまえば中の賑やかな音は全く聞こえず心地いい風の音だけが響いた。


扉を閉める音でベンチに腰掛けていた人物が振り向く。さらさらと金の髪が風に揺れた。



「セオドアか。」



どうしたと問うカインさんの目の前まで行きエッジさんの時より控えめにトリック・オア・トリートと言ってみる。ああと呟く彼はお菓子はないぞとそう言うと僕のお菓子の籠を見て少し笑った。



「俺はそういうイベントが苦手でな。」



どこぞの王子様は大層なはしゃぎぶりだが。と広間を見る彼ごしに破顔したエッジさんが見えた。



「いえ。お菓子が欲しいわけでは無いからいいんです」



朝から大人にお菓子をくれなきゃいたずらするぞと言って回ったがそれは普段会えない人との楽しいやりとりのきっかけにすぎない。お菓子は本当におまけのようなものだ。



「外は冷えませんか?温かい飲み物でも取ってきますね」



言って広間に戻ろうとした僕の腕をカインさんは軽く抑えた。



「カインさん?」
「トリック・オア・トリートなんだろ。お菓子をあげなかった俺にいたずらしないのか?」



先ほどのエッジさんと似た類の悪そうなからかうような笑みを浮かべるカインさんと目があった。
いたずらと言っても何をすればいいんだろう。みんなお菓子をくれるからいたずらなどしたことが無い。



「煮るなり焼くなり好きにしていいぞ」



茶化すように微笑うカインさんに今さらながら心臓がドキドキしてきた。おそらくは気まぐれな遊びだろうけど好きにしていいとはなんとも魅力的な言葉だ。


何をしようかと悩んでいる僕が可笑しいのか薄く微笑いながらカインさんは目を閉じる。僕の言葉をゆったりと待っているのがわかった。



「じゃあいたずらしますからそのまま目を閉じていてください。」



返事はなかったけど閉じられたままの目に肯定の意を察してカインさんの後ろに周る。首筋を隠す長い髪を片側によけて彼の首元に顔をよせた。
彼独特の甘い香りが鼻をくすぐる。この首筋に顔をうずめていつまでも甘い匂いを香いでいたい気持ちになったがすんでで踏みとどまりカプリと軽く噛み付いた。



予想外だったのだろうかピクリと肩を揺らした彼に出来る限り平静を装って笑う。



「ハロウィンなんでなんちゃってドラキュラです」



血は吸ってないから大丈夫ですよと茶化せば彼も俺の血は吸ったところでマズイがなと合わせてくれる。
その言葉に笑い広間に戻りましょうと立ち上がった。



お菓子よりも甘い香りが鼻に残っていてお酒など飲んではいないのに頭が猛烈にクラクラした。





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