謎の人、優しい人






いつもの通り軽い食事を取って日が傾きだすと同時に早々にテントを張る。夜に動くには僕は経験が足らず身の危険が大きい。彼も無理に動こうとはせず洞窟の入り口や森の木の下などあまり目立たない場所に使い慣れたテントを張るのだった。



「あの、ちょっと外に出てきます」



煮炊きを済ませれば後は寝るしかない。日が暮れてしまえば再び昇るまでの間、狭いテントに二人並んで横になる。といっても未だ謎のこの人は横になるのはほんの僅かな時間でほとんどはすぐに動けるよう座っている事が多いのだが。

例の如く立て膝で座る彼に用を済ませに行くと言えば返事はおろか目線すら寄越さなかった。最初こそ戸惑ったものの今はもう慣れたもので特に気にせずテントを出る。今日は葉の茂った大木の下にテントを張った。森の中だがあまりテントに近いところでは気が引けて昼間の記憶を頼りにまっすぐ進む。少し戻れば森の入り口、野原に出るはず。



「あまり離れないようにしなきゃ」



振り返れば月明かりにぼんやりと淡く浮かぶ黄色のテント。さくさくと歩みを進めつつその中にいる人物に未だ打ち解けられていない気がするとため息が出た。無口で無表情な彼だがふとした瞬間柔らかな雰囲気を感じる。それは父親に少し似た類の暖かなもので心地よく、もっと近づいてみたいと思う。だが苦しそうな痛いような顔をしているのも時折見かける。その時の彼の雰囲気は明るくなく僕はどうしていいかわからず気づかないふりをするしかない。



「いい人だとは思うけど…何もわからないからなぁ」



聞いても黙殺されるだけ、素性も事情も名前すらわからない謎の人。



「いつか教えてくれるかな」



そうだといいなとなんとなく見上げた頭上、首を上向けたまま思わず惚ける。白、黄色、淡く儚く。色とりどりの星が空いっぱいに広がって思わず動きが止まるほどそれは見事な星空だった。



星が降ってくるようなそんな輝きに上を向いたまま呟く。呟こうとした。



「綺麗だ」



綺麗だと。僕は言っていない。そう呟こうとした刹那、低い声に言葉を奪われたのだ。
慌てて後ろを振り向けば剣を片手に長身の男の人が同じように空を見上げていた。
テントを張れば休むだけ、ぐるぐると巻き付けられたターバンはなく昼間より軽い装いの彼の長い金の髪が妙に目を引いた。



「見事な星空だ。この辺りで長らく過ごしているがこれほど見事な空はなかなか見れん」



最近は特になと言う彼の剣から魔物独特の生臭いような匂いがして背中が寒くなる。近くとはいえ手ぶらで外に出たのは短慮だったようだ。



「用は済んだのか。星を眺めるのはけっこうだが隙だらけな丸腰でとはいただけんな」



鋭い瞳に見据えられてすみませんと謝りつつ、やはり聞いていないようでちゃんと聞いてるんだと少し嬉しくなる。



「戻るぞ。明日も早い」



言って踵を返す彼にもしかしなくても迎えに来てくれたのかと思うとまた嬉しい。振り返りもせずテントへと戻る彼の側に丸腰だからと言い訳していつもよりぴったりとくっついた。












「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -