ある休日の二人





「暖かいな」
「初夏のようですね。太陽の下だと暑いくらいです」



緑の草原を歩きながらたわいもない話をする。足元には緑色が濃い草と可愛らしい色の花がポツポツと咲いていて腕に抱えた白のシーツに太陽の光が反射してとても眩しい。



「洗濯日和だなぁ。カインさん、ちゃんと待っていてくださいね」



お願いと母親から有無を言わせぬ笑顔で押し付けられた籠は洗濯物でいっぱいで。嫌がったりはしないけれども一人で行くのはつまらないと休みのカインさんを引っ張ってきたのだ。



「足元を見ろ、危ないぞ」



王宮裏に湧く小さな泉。とても水が澄んでいて周りは緑が豊かな綺麗な泉だ。洗濯をするにはちょうどいい。



「大丈夫です。僕はもうそんなに幼くないですよ」



にっこりと。
目線は持ってきた本に向けたまま注意をするカインさんに笑顔で振り返った。その姿勢のまま視界が薙いだ。











「…だから言っただろう」



慌てふためいて顔を出せばすぐ近くに呆れ顔のカインさんがいた。片手に本を持ったまま、捕まれと左手を差し出してくれる。

ふと思い立ち水に浸かったまま腕を伸ばす。

武人の癖か僕の良からぬ空気を敏感に察知して咄嗟に身を引いたカインさんの手をなんとか捕まえて引っ張ればつんのめるようにたたらを踏んだ。落ちまいと踏ん張るカインさんに引き込むのは諦めて上体を目一杯伸ばす。濡れた体で抱きついた。



「…お前な」
「あはは。ごめんなさい。でも寒くはないでしょう?」



盛大に濡れた体で抱きついたものだから当然カインさんも濡れ鼠になる。一房の長い前髪からポタポタと水が滴って二、三度それを目で追っていたカインさんだが諦めたように息を吐いた。



「…天気の良い日で幸いだ」



長い溜息をつくと泉の淵に腰を下ろす。ズボンの裾を捲ると足だけを泉の中に入れてまだ少し冷たいなと足先で水をかき回した。



「でも慣れてしまえば気持ちいいです。日も高いし」
「だからと言って浸かるには寒いだろう」



寒くないのかと呆れた風の声に笑って水を混ぜる足を捕まえる。澄んだ水に普段日に当たることのない色の白い足が漂う様は綺麗だ。
足の間に体を入れて腰に抱きつく。未だ彼の髪から滴る水が僕の額を打った。



「泉に住む人魚姫か」
「見えなくはないですね。でも姫じゃないですよ」



下半身は水の中、硬い太ももに頭を乗せて仰向ければ水の浮力で体が浮くのがわかる。見上げれば眩しい太陽と眩しい金の髪。カインさんの濡れた髪が頬に軽く張り付いて雫がその顎を伝うのが見えた。
水から上半身だけ出した僕を揶揄って人魚姫と言ったカインさんだが僕よりもよほど彼の方が似合うと思う。そうして泉に住む金髪の人魚姫の元に僕は足繁く通うことだろう。



「…それじゃ童話と逆ですね」
「…何の話だ」



呟く僕を怪訝そうに見るカインさんの眉根が寄って、綺麗だけども怖い顔の人魚姫だなと思った途端可笑しさに肩が震える。水に波紋を広げる僕に
、どうせ不遜なことでも考えているのだろうと紫の指が軽く僕の頬をつねった。



「痛いですカインさん」
「お仕置きだ」



たいして痛くはないけれど。大袈裟に顔を顰めればお仕置きだと彼は笑う。ぽかぽかとした春の陽気にゆったりとした時間が流れてあー幸せだと心底そう思った。














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