それは僕だけのA
「はー…疲れました」
ぐるりと肩を回せば凝りに凝った肩が小気味いい音を立てた。最近一人で隊を率いて外交に行く機会がぐんと増えた。回数を重ねてもやはり緊張する。知らず知らずに力が入っている事をこうして部屋に帰ってくるとありありと感じて鎧やらマントやらを外す間にも体のあちこちを解さずにはいられない。
「ご苦労だったな。しかしまだ若いのに年寄りみたいな事を。」
温かく湯気を立てるカップを机に置くとカインさんはベッドに腰掛ける。飲めとの言葉にありがたく口をつけると紅茶の豊かな風味が口から鼻へと抜けた。
「気疲れのが大きいですけれど。やっぱり緊張します。…エッジさんのところはあまり緊張はしませんでしたけど」
カインとうまくいってるのかと綺麗な顔で豪快に笑う彼を思い出す。カインさんによろしくと言っていましたと伝えれば苦いような微妙な表情が返ってきた。
「相変わらずだなあの王子様は」
「仲良くないんですか?」
「…嫌いじゃないが苦手ではあるな」
フンと鼻を鳴らすカインさんに笑ってその隣に腰掛ける。そのまま上体を倒して組まれた足に頭を預ければついと涼やかな目線が向けられた。
「いいですか?」
膝を借りてもと聞けば無言で目線が逸らされる。何も言わない彼をいい事に膝に甘えるのはもはや当たり前になっている。
いつだか初めて膝を借りた時も彼は黙ってその心地いい膝を貸してくれた。あの時は少し面食らったような顔をしたけれど。
「はー…。癒されます。疲れが飛んでく」
カインさんの膝を枕に仰向けに寝転がれば金の髪が頬を擽る。頬を少し横にあるお腹に押し付ければ鍛えられた腹筋が触れて、固いけれどそれはとても心地いい。下されたままの髪に頬を擽られるのもこの固い腹筋の感触も温かな膝に頭を乗せられるのも僕だけだと思うと最高の気分になる。
「男の膝を借りてそこまで喜ぶのもお前だけだろうな」
フッと笑う声に思わず口角が上がる。最高にご機嫌な僕に呆れたように口の端を上げる彼に、唐突に好きですと言えば額に軽く手が乗った。
「もはや口癖のようだな。よく飽きもせずそう毎回言えるものだ」
「あはは。だって本当にカインさん好きなんです。何回言っても足らない」
ほんの少し撫でてくれた手を取って自分の頬に押し当てる。温かな手に眠気が襲う。とろとろと微睡みながら愛しい人の膝で寝れるとはなんと幸せなんだろうと頬が緩んだ。