それは僕だけの@






カインさんから国王にこれを渡してきてくれと報告書を預けられた僕は政務室に向かって歩みを進める。国王である父親セシルは日中はここで政務を執り行っている。隊務の途中、急ぎの報告だからと彼らしい生真面目そうな繊細な字の並ぶ報告書の束を手に、なるべく早く隊務に戻らねばと足早に廊下を歩く。その僕の耳に男女のくすくすと笑いあう声が聞こえて通り過ぎた部屋の少し開いた扉から室内を覗き込めば父母が仲良く並んでソファに腰掛けていた。



休憩中だろうかいつもの凜とした顔は何処へやらリラックスした顔でふう、と父親はひとつ息を吐くと意外にも逞しい腕を母の腰に回す。膝に頭を乗せて腰に抱きつく父親は子供のようで母親もそれに笑いながらも父親の頭をひとつ撫でた。



「甘えん坊さんね」
「たまにはね。この膝はセオドアのものだけど僕のものでもあるから」



不意に名前を呼ばれてどきりとする。母の膝に甘えるほど僕はもう小さくないのにと唇を尖らせると同時に母親もあの子はもうそんなに小さくないわと笑った。



「なら僕が独り占めだよ。ローザの膝は温かくて柔らかくて心地いい。疲れが取れるんだ」



母のお腹に顔を押し付けるようにして抱きついていた父親は寝返りを打つと仰向ける。母の膝を枕に開いた手で母の頬を撫でた。



「こんな甘えん坊さんの姿、誰にも見せられないわね」
「この姿で国王の威厳を語っても説得力はないねぇ」
「父親の威厳もよ」



ソファに寝転がる父親とその膝を貸す母親はたわいない話をしながら笑いあう。
愛の言葉を囁く父親にこれ以上盗み見ているのは申し訳なくてそっと踵を返す。静かに静かに扉を閉める瞬間、優しい声で私もよと囁く母の声が聞こえた。








「いいなぁ…」



愛しい人の膝を枕に愛を囁きあう二人の姿に僕の脳内に広がる思いはただひとつ、羨ましい。
僕だってカインさんの膝を枕にその体に抱きついたり仮眠を取ったり撫でられたり、あわよくば愛の言葉を聞いてみたい。



「でもなぁ…」



廊下の窓から下を見下ろせば鎧に身を包んだ僕の愛しい人。手元の紙を見ながらテキパキと指示を飛ばしている彼は見下ろす僕の視線に気づいたのかちらりとこちらを見る。他の隊員の手前、手を振るわけにもいかず上官に対しての礼儀的な敬礼を返せば彼はなんのリアクションもせずに視線を切った。



「怒られそうだな」



カインさん膝を借りてもいいですか?なんて言った暁にはあの温度の低い目で見下ろされそうな気がする。
彼はどんな反応をするのだろうと考えながら足早に階段を降りれば隊員に指示を出す低い声がよく響いた。



「セオドア、セシルは何と?」



ガシャリと鎧独特の音を響かせて歩いてきたカインさんに父さんは今取り込み中でしたと告げれば僕の顔を見てか彼は呆れたような顔をする。



「何をしているんだあいつは。急ぎだというに」




お前もおとなしく帰ってくるなと額を小突く紫の指先にすみませんと謝れば彼は深いため息をついた。



「まったく。どうせ息抜きとか称してローザにひっついているのだろう」
「…よくわかりますね」



僕の手の報告書を取るとまたため息をひとつ。長い付き合いだからなと政務室がある方向を見上げる彼に少しの嫉妬。



「カインさん、今度聞いてみたい事があるんです。二人の時に」



隊員からは見えないように一歩距離を詰めると彼の長い髪を軽く手に抱き込む。金と水色の取り合わせが綺麗だと何度目か思う。



「…わかった。二人の時にだな」



ぽんと軽く僕の手を叩くと彼は隊務に戻るぞと踵を返す。その背中にはい、部隊長と返事を返して金の髪を追いかける。振り返る前、ほんの僅かに上がった彼の口角にこれは意外と借りれるかもしれないと淡く期待をせずにはいられなかった。









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