水色と青と




「カイン、35歳の誕生日おめでとう」



にこにこと笑う父親に複雑そうにしながらも彼は短く礼を言った。



「もうおめでとうと言われる歳ではないがな」
「お互い歳をとったね。だけど誕生日はいくつになってもおめでたい事だよ?」



盛大なパーティが嫌いな彼のためにごく身近な物だけが集まっての誕生日会だ。はいプレゼントと父親は細長い包みを手渡す。うっすらとわかる形からあれはワインだろうか。


母親も繊細で綺麗な柄のメッセージカードを手渡した。
各地の一緒に戦った仲間からもなにやらたくさんのプレゼントが届いている。



「エッジやリディア、ギルバートにこれはヤンからだね」
「よく覚えていたものだな」



父親はどっさりと届いたプレゼントを検分しながらひとつひとつ彼に手渡す。どこか呆れたような声を出しながらも受け取る彼の顔は嬉しそうだった。



「ほう。あの王子様はずいぶんと豪華な物を送ってきたな」
「エッジかい?それはエブラーナ伝統の細工だね。」
「見事な槍だ。実戦で使うのは惜しいな」



一際大きな包みを解けば複雑な細工の槍が出てくる。繊細に彫られた模様からかなり値が張る物だとわかった。
これはお返しが大変だと笑う彼に今さらながら自分の用意したプレゼントがちっぽけな物に思えた。



「セオドアは?」



母親が腕によりをかけた豪華な誕生日ケーキを取り分ける。なかなかプレゼントを渡さない僕にちらりと視線をよこした。



「あ、いえ、用意が間に合わなくて。」



学校の課題が忙しくて。ごめんなさいと謝れば彼は怒ることもなく、気にするなと微笑んだ。

ロウソクの火を吹き消して、いやもうそんな歳じゃない、と軽いもみ合いをする父親と彼を見つめながら思わずため息が漏れた。








自室に戻りベッドに座る。ポケットに忍ばせていた水色の包み紙を取り出した。



何をあげようと思った時に真っ先に浮かんだのは彼のサラサラとした金髪だった。腰に届くほど長い髪の毛は常に高い位置で括られている。水色の髪留めに細かい傷がたくさんついているのを思い出してなけなしの小遣いで髪紐をいくつか買った。

淡い水色と濃いブルーの髪紐を合わせて彼の鎧に合わせても違和感がないようにひとつひとつ編んだ髪紐。



「でもなぁ」



先ほどの光景を思い出して思わずうつむく。
あんなに豪華な贈り物が見守ってる中渡す勇気は出なかった。
母さんにでもあげようかなぁと無意味に髪紐を揉んでいるとすいっと影が差した。



「美しいな」



思わず固まると長い指が髪紐をそっと摘まんだ。
すまんなと謝る声は少しも悪びれる様子はないけど。



「ノックしたが返事がなかったので勝手に入ったぞ」
「え、ああ、はい…」
「これは誰に?」



手のひらに乗せた髪紐を見つめながら彼は椅子に腰掛ける。返事はわかっていると言いたげに括った髪を解いた。



「…カインさんに。本当は用意してたんです」



ただ安物だしすぐ切れてしまうかもなんて言い訳する僕の言葉を聞いているのかいないのか彼は元通りに髪を結う。思っていたよりずっと金色の髪に濃淡の違う青が映えた。



「食事の時なにやら沈んだ顔をしていたから来てみたが正解だったな」
「え?」
「こんなに美しい贈り物が貰えた」



微笑む彼はセオドアよ。と続ける。



「贈り物は価値ではなかろう?」
「…はい」
「相手を想う気持ちがあればたとえ野に生える花だってダイヤモンドと同じだ。」
「はい。…あの、カインさんを考えた時に一番似合うのはそれかなって思いまして」
「その気持ちがなによりも嬉しいさ。ありがとう。」



大切にする、と微笑う彼に思わずニヤついてしまう。金の髪をまとめる青に、やっぱり渡せてよかったと思った。











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