パーティーはうまくいきましたA






「セオドア一人か?ローザはどうした」



母さんに習った基本のステップを踏みながら四苦八苦していた僕によく知る声がかけられた。ホールの入り口を振り返ればやはりカインさん。だが彼はいつもの鎧姿ではなく黒の細身のパンツに白のブラウス姿だった。



「…ダンスの師を待っているんです。母さんは邪魔になるからと。母さんに用事が?」
「いや、お前に用がある」



ローザはどうしたとの言葉にてっきり母さんに用かと思いきや腕まくりをしながらまっすぐ僕の元に来る。目の前に立つといきなり僕の腰を抱いた。



「えっ何を、えっ?カインさん?」
「手を貸せ。左手は俺の肩に回せ」



わけがわからないうちに手を取られる。グッと力強く引き寄せられて腰のラインがぴったりと彼にくっついた。
これはもしかしなくとも。



「まさかカインさんが…?」
「ダンスの師だが?」



涼やかな目に見下ろされて父母の意味ありげな笑みの意味にやっと気づく。よりにもよってカインさんかと色々な意味で血の気が引くのがわかった。



「一回俺がリードするから踊ってみるぞ。女側のステップはわからんだろうから適当でいい」



がっちりとダンスの型に組まれた近い距離でそんなことを言われてただ頷くしかできない。組んだ手に手汗が滲むのがわかってどっと全身に汗が噴き出した。



「セシルも下手くそだったがお前もか。セシルが助けてくれと来た時は何事かと思ったがな」



話している間にもくるりくるりと緩やかに右へ左へと体が動く。手も体もがっちりと彼に抱えられているせいか足を踏むこともなく安心して身を任せられる。長身の彼だから操り人形のような感じは否めないがリードが上手いとはこういう事かと思う。



「セシルもお前も難しく考えすぎだ。ステップさえ覚えればあとは適当にターンでもしておけばそれなりに見えるものだ」
「わっ!」



ぐんと腕を引かれて彼との立ち位置がくるくると変わる。もはや何がどうなっているのか全くわからないが踊れているのは確かだ。



「長らく俺といるからわかるだろうが口では教えんぞ。体で覚えろ」



かつて崖登りをした時、道は自分で切り開くものだと置いて行かれたことを思い出す。あの絶壁を登るなんて無茶だと思ったが登ってしまえばなんのことはなかった。ダンスも同じかと言えば少し違う気もするけど。



静かなホールに低い声が響く。テンポよく三拍子をとる声に合わせて二人の体が動く。足元ばかり見ては駄目よと母親の教えを思い出して目線をあげれば目の前には白いブラウスと薄い胸板。組んだ手の感触とぴったりとした距離。



「カインさん…」



まずいかも、と思った刹那力が抜ける。少し休憩をと言った言葉は音になったかわからないまま素直に意識を手放した。













「大丈夫か?」



冷たい感触に頭を触れば額には水に濡らしたハンカチがあった。渡された水を素直に貰い身を起こす。すぐそばに座っていた彼はまだ寝ていろと僕の頭を小突いた。



「急に倒れるから驚いた。剣の稽古ではへばらないくせにどうした」
「どうしたんでしょうね…」



貧血でしょうかと誤魔化しつつ頭のハンカチで顔を覆う。近すぎたのだ。距離が。手は握られているしいい匂いがするしおまけに自分の苦手なダンス。あたまの回線がパンクするのも仕方ない気がした。



「どちらかと言うと貧血より脱水に近い気がするがな。汗がひどいぞ。水分をとれ」



真面目に分析する彼にもう少し休ませてくださいと呟けば返事はなかった。ただ黙って座っている彼を横目で見つつ倒れてしまうなんてと少し落ち込む。それと同時に先ほどの接触を思い出して顔に熱が集まるのがわかった。


顔を覆う手が熱くなるほど集まる熱にこれは本当にしばらく休まないととため息をついた。













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