春。恒例のアレ。


【少年期】



痒みを訴える目に意思に関係なく垂れてくる鼻水。今日は一段と酷いなぁと憂鬱になりながら我慢できない痒みに思わず手の甲で目を擦ってしまう。


春先の今日は暖かくゆるい風が気持ちいい日なのだがこの暖かさは人間だけでなく花たちの活動も活発にするらしい。
目には見えない花粉がたくさん飛んでいるらしく花粉症である僕にはこのうららかな日は辛いものだ。



ゴシゴシと快感に流されるまま擦っていた手が突然誰かに掴まれた。



「どうした、セオドア」



驚いて振り返れば普段着に身を包んだカインさんが立っていた。眉を寄せた彼はハンカチを取り出すと僕の目元に滲んだ涙を拭う。痒みから流れた涙だったが彼は嫌な事でもあったのかとより眉間の皺を深くした。



「あ、いえ、そうではなくて」



言いかけた途端鼻水が垂れそうになって慌てて鼻をすする。カインさんが渡してくれたハンカチを慌てて顔に押し付けた。鼻水が垂れた姿などどうあってもカインさんに見られたく無い。
不自然に言葉を切った僕に彼は訝しそうな顔をする。ああこれは勘違いさせてしまうとハンカチに顔を押し付けたまま口を開けば僕の肩にカインさんの手が置かれた。



「泣くな。何があったか俺でよければ聞くぞ」



話してみろと肩に置かれた手に違う意味で顔が上げられなくなる。真剣な彼の声に今さらなんでもない、花粉症だとは言えなかった。
どう答えようかと考えている間にも俯いているせいか鼻水が止まらない。ズビズビと鼻をすする僕にカインさんの困惑する気配がした。



「セオドア。泣くばかりではわからん」
「違う、んです、カインさん」



ズビッと鼻がなる。相変わらず痒い目は擦ったからか腫ぼったい気がする。いい匂いのハンカチで鼻と口を塞ぎながらせっかくカインさんが心配してくれているのにとより憂鬱になる。今の僕はきっと酷い顔をしている事だろう。
意思とは無関係に垂れてくる鼻水に言葉を返せずにいると長身の彼は腰を折る。目線を合わせると大きな手で僕の肩を叩いた。



「何を悲しんでいるのかは知らんが。悩みがあるならいつでも言いに来い。」



力になろうとほんの少しだけ紫の唇が微笑む。唇とお揃いの紫色の指先が僕の目元に滲んだ涙を拭っていった。
居た堪れずに逃げ出そうとした身体が誰かにぶつかる。未だハンカチで顔を押さえたまま見上げれば僕と同じく鼻をすする父親がいた。



「やあ、カイン。今日は暖かいけれどその分花粉が酷く飛んでいるよ。セオドアも見たところ辛そうだね」



僕たちは酷い花粉症だからねとのほほんと笑う父親に花粉症?と低い声が被さった。真剣に心配された手前気まずくて、父親の陰に隠れる。ちらりと目線を上げれば片眉を上げた彼と目が合った。




「紛らわしいぞセオドア。」
「何がだい?カイン」
「…こちらの話だ。」



笑って、やれやれという風に頭を振る彼に話の掴めない父親は不思議そうにする。一方からは呆れたような笑みで、もう一方からは不思議そうに、見つめるふたつの視線に思わずうつむけばまたしても彼のハンカチに鼻水が垂れた。



せっかくのカインさんのハンカチが!と焦る気持ちと恥ずかしさと、でも心配してくれた嬉しさといろいろな気持ちがごちゃ混ぜになってわけが分からなくなる。ぐるぐる回る思考にとりあえずこのハンカチは早急に洗濯せねばと顔に押し付けたハンカチを握った。








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3月のフォームメールお礼文でした。










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