ホワイトデー





いつもは僕の方がちらちらとカインさんの顔を盗み見ているのだが今日はなぜか彼の方からちらりちらりと視線を感じた。



朝食の席から始まって隊務の最中、他の隊員と作戦を立てている時、すれ違う一瞬など彼の方から視線を感じるのだ。見られている?と彼を見ればふいっと視線を逸らされてしまう。



「なんだろう…」



駆け寄ってどうしたんですかと聞きたかったが隊務の最中にそれは出来ない。特に今日はこれから僕が隊員を率いて他国に外交に行く初めての日だ。夜には戻れる予定だがいつも以上に忙しく二人きりになる時間は取れないだろう。



「…帰ったら話に行こう」



父母と共に見送る彼にうなづいて、飛空艇を走らせた。






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疲れた身体を引きずって自室へと向かう。昼間何やら言いたそうに僕を見ていたカインさんを思ったけれど彼の部屋へと行く体力は残っていなかった。



「もう遅いし…明日一番に会いに行こう」



歩く廊下は月明かりに照らされて青白く光る。月を見上げる元気すらなく自室のドアノブへと手を伸ばす。まっすぐにベッドに行ってすぐ寝よう、と気怠くドアを開いた。



「え…?」



開いたドアの先、真正面の僕のベッドに座る金の人。背後の窓から見える月を見ていたらしい彼は僕に気づくと一言、邪魔しているぞと笑った。



「カインさんが僕の部屋に来るなんて…」



珍しい…と呟けば彼は可笑しそうに笑う。



「普通ならばいる理由を聞くはずだがな」



くつくつと笑う彼はそんなところに立っていないで座れと隣を指す。僕の部屋なんだけどなと思いながらもおとなしく彼の隣に座る。座るついでに抱きつくように彼にもたれかかった。
細い体を抱きしめて気づく。かなり体が冷えている。



「いつからここに居たんです?今暖炉に火を入れますね。」



慌てて立ち上がって薪を手に取る僕に彼はどこか上の空で頷く。昼間からどこか様子のおかしい彼に、暖炉に薪をくべると隣に座りなおし顔を覗き込んだ。



「体調でも悪いのですか?」



まじまじと顔を見つめればいつもはまっすぐ見つめてくる目が逸らされる。あまり感情が顔に出ない彼のこと、今も別段いつもと変わりはないのだがどこか落ち着かなげな彼の姿に珍しいと思うと同時に心配になってしまう。
カインさんと名を呼んで手を握れば逸らした視線がちらりと僕を見た。



「いや…考え事をな。」



フッと自嘲するように笑うカインさんに意味がわからず首を傾げれば彼はところでと話を切り替えた。



「今日の隊務はどうだった。初めて他国に外交に行った感想は」
「ああ、はい。でもギルバートさんのところなので初めてといってもあまり緊張せずに滞りなく。報告書もまとめたので明日部隊長に提出しますね」



仕事の話となると部隊長としての見方がどうしても強くなってしまって握りこんだ手を離して向かい合うように座り直す。ベッドの上で真剣に隊務の話をする僕たちは自分でも不思議な光景だ。



「それからギルバートさんがカインさんによろしくと。父達にも伝えてくれと言われましたが」
「しばらく会っていないな。ダムシアンは大層綺麗な国になったと聞くが」
「緑が豊かな国でした。みんな明るくて」



そうかと相槌を打ってくれるカインさんに疲れも忘れて今日の出来事を話す。先ほどまでは泥のように眠ろうと思っていたのに彼の顔を見ると元気が出てくるから不思議なものだ。
けれどやはり眠い。しばらく話し込んでいたが疲れのせいか回転の鈍い頭は言葉を次げず温まった部屋に沈黙が落ちた。



「…すまんな、隊務の話など」



少しの沈黙の後、彼が自嘲気味に謝ってきた。やはり何か言いたいのかとただ黙って言葉を待つ。



「疲れているお前に隊務の事など言いに待っていた訳ではないんだが…思いつかなくてな。」
「何がですか?」
「お前が来るまでに考えておこうと待っていたんだが。…皆目わからん」



一体何の話だろう。さっぱり話の内容がわからない。



「あの、カインさん、何の話…」
「お前が喜ぶ物をあげたいんだがな。思いつかん。だからこれで許せ」



首を傾げた時だった。
細い手が僕の両頬に伸びて包むように上向けられる。プライベートな時間だからかなにもつけていない薄い色の唇が僕の頬に押し当てられた。何度か軽く頬を掠めるとそのまま僕の唇に彼の唇が重なる。



「え?…え?」



柔らかな感触を楽しむ間もなく離れる彼にわけがわからずぽかんとしてしまう。カインさんから僕に口付けてくれるなんて。



「…眠いだろう。長居して悪かったな」



何事もなかったように立ち上がるとぽんと僕の頭をひと撫でして彼はさっさと部屋を出て行く。相変わらず阿保の様に口を開けたまま思わず頬や唇を押さえた。



「嬉しい…けど。なんでだろ…」



閉まったドアを見つめても答えはわからない。ただ僕にこうして口づける為にずっと待っていたらしい彼に、なんて嬉しいのだろうと顔に広がる笑みは抑えようがなかった。



僕がそのわけに気づいたのは翌朝カレンダーを見てやっと。



















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