冬。バルコニーにて


【青年期】


2月も半ばになり昼間こそ春の訪れを僅かながら感じることが出来たが日が落ちればやはりまだまだ寒い。特に今日は書き物の手を休めて暖炉に蒔を足さねばぶるりと体が震えるほど空気が冷たかった。
自室の暖炉の火が弱くなったことに気づいて何度目か薪を足しに立ち上がる。何気なく通り過ぎた窓の外にちらりと落ちるものが見えた。



「あ…初雪。」



ぼんやりと淡く光る白い粒。今年は暖冬だと騒がれていて実際例年なら雪が降る年明け頃も日差しが暖かかった。だからもしかしたら今年は雪は見れないかもと思っていたがやはりこの白い結晶はバロンに訪れたかったらしい。けっこうな勢いで地上に落ちてきているから明日は一面の銀世界が見れるかもしれない。
綺麗だなぁとしばらく見つめていたけれどふと思い立って抱えていた薪を下ろす。火を消して自室を出た。









二、三回ノックしたものの返事がない。いつもならすぐに開く扉は静寂を保ったままだった。留守なのだろうか。それとも日付も変わったこの時間、もう寝ているのだろうか。



「夜這いか?」
「うわっ!…驚かせないでください」



もう一度ノックしてみようと拳を掲げたと同時に突然耳元に響いた低音の声に肩が跳ねる。耳を押さえて振り向けば声の主は冗談だとくつくつと笑った。



「俺の部屋の前で何してる」
「…カインさんこそこんな夜遅くに」



どこに、と聞けば彼の部屋の相向かいに作られている小さなバルコニーを指差した。



「雪を見ていた。積もった雪景色よりも降っている最中の方が好きでな」



言って彼は髪をかきあげる。下ろしたままの髪は一度入ったベッドから起きてきたからだろうか。



「そうして雪を見ていたらお前が来たからついな。しかしいつまで経っても気配に疎いなお前は」



いつから見ていたのか、おそらく僕がした最初のノックから僕の後ろ姿を見ていたんだろうと気恥ずかしくなる。悔し紛れにカインさんは気配を殺すのが上手すぎるんですと反論すれば彼は可笑しそうに笑った。



「それで。まさか本当に夜這いじゃないんだろう?何か用か」
「僕も雪を見ていたんですけど初雪じゃないですか。一人よりカインさんと見たくて」



目の前に立つカインさんの髪を一房手に抱き込む。遮るものがないバルコニーに立っていたせいで羽織った外套や髪のあちこちに白い粒がきらきらと輝いていた。



「雪が降る様は美しいからな。見ていて飽きん。だがセオドア、その格好じゃ寒いだろう」



俺の外套を貸す、と部屋に入る彼を止める。怪訝そうにする彼に笑ってバルコニーへと促した。



「こうすれば暖かいので大丈夫です」



不審そうな目をするカインさんを前に立たせて彼が羽織っている外套を奪う。自分の肩にそれを羽織り直しそのままカインさんを抱きしめた。カインさんごと外套の前を抱き込めば二人の体温が篭って思った以上に暖かかった。



「何をしているんだセオドア」
「暖かいでしょう?」



不審そうな目から一転呆れたような目をする彼に笑顔を返せば本当に呆れたのかそれとも諦めたのか彼はただ黙って雪を眺める。外の空気は冷たく二人の熱を逃がさないように強く前を抱き合わせる。外套の下で抱き込んだカインさんの身体をよりぴったりと抱きよせた。手を探り握れば少し冷たい手が握り返してくれた。



「綺麗ですね。」
「ああ。」



音もなく降る雪はとても美しくそれを眺めるカインさんもまた美しかった。








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2月のフォームメールお礼文でした。












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