いつかは貴方からも。
「見て、可愛らしいお花が咲いてるわ」
そう言って僕の手を引くのはバロン一の美女と名高い母親のローザだ。そう言うと彼女は昔のことよと笑うけどその美貌は未だ衰えを知らない。
「摘んで帰りますか?母さん」
「いいわ。せっかく綺麗に咲いているのだもの摘んでしまっては可哀相よ」
そっと花を両手で包むと顔を近づけ香りを楽しむ。それは子供である僕から見ても素晴らしく絵になっていた。
「ローザ、セオドア、あちらの丘がちょうど良さそうだよ。」
サクサクと足音が聞こえて振り返れば銀の髪の僕の父さん。バロンの国王である彼はいつも鎧をまとって一分の隙もなく凛とした姿をしている。だけど今日は鎧はつけず動きやすそうな衣服にいつもは剣が握られているその手にはピクニックバッグを下げていた。
今日は母ローザの提案によりみんなでバロンの外れにピクニックに来ているのだ。
「行こう。あそこは陽も当たるし風が抜けて気持ちいい。」
「父さんいい場所を見つけましたね」
少し登った先の丘はいろいろな花が咲いていて風が緩く通り抜けてとても気持ちいい。すごい!と父さんを振り返れば彼は少しバツが悪そうに笑う。
「いや、ここを見つけてきたのはカインだよ。」
「カインは昔から居心地がいい場所を探すのが上手かったわね」
くすりと可愛らしく笑う母親はそのカインはどこなの?と辺りを見渡す。薪を拾いに行くと言っていたけれどと父は手に持ったピクニックバックを下ろした。
「カインの事だから心配はいらないさ。ここで待っていよう」
よいしょと腰を下ろすと母の腰を抱いてそばに引き寄せる。父さん、セシル、と僕と母さんの声が被った。
「セオドアの前で何するの」
「そうですよ。仲がいいのは嬉しいけど」
半ば無理矢理隣に座らせた母さんの腰を抱いてにっこりと笑う父親はいつもよりはるかにリラックスしているようで、もう!と呆れたような声を出した母親もまんざらではなさそうだった。
「ごゆっくり。僕カインさんを手伝ってきます」
一応気を使ってカインさんの元へ行くと腰を浮かせれば気をつけてと父親の声。少し離れた森の入り口で振り返れば父親の肩に母親がもたれかかっていて何事かを話していた。二言三言何かを囁いて笑いあう父母にこちらまでほんわかとした気持ちになりつつ森の中の彼を探しに歩き出した。
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