目には見えないけれど



「ここで少し休憩しておこう」



そう言って彼は地面に伏せて日向ぼっこしているチョコボに一言声をかけてつやつやとした体を背に地面に座った。寄りかかられても気にしていないらしいチョコボはおとなしく彼に体を貸している。
チョコボの生息地は意識して探さないと見つけられないほど森の中に巧みに溶け込んでいて魔物の襲撃は全くない。常にピリピリと周囲を警戒する必要がないため森でここを見つけると僕はおろか彼でさえゆっくりと安心して休憩が取れた。



「ちょっと休ませてね。」



興味深そうに寄ってくるチョコボ達に僕も声をかければ歓迎してくれたのかピィピィと鳴き合う。賢く人懐こい彼らは僕に擦り寄ったり側に座り込んだりわらわらとまとわりついて押しつぶされそうになる。いいようにもみくちゃにされる僕をよそに少し離れたところで休む彼から煩いぞセオドアと声がかけられた。



「すみません、意外とこの子達力が強くて」



そう言っている間にも一匹のチョコボが胸にグリグリと頭を擦り付けるものだから思わず苦笑いしてしまう。僕が子供だからかそれとも舐めているのか遊んで欲しいのか理由はわからなかったけれどどこの生息地に行っても涼やかな彼の周りに対して僕の周りは賑やかだった。



「貴方の周りのチョコボは大人しいのに不思議です」
「俺に興味がないだけだろう」



荷物を解き剣の手入れを始めた彼は僕とは反対にゆったりと背をチョコボに預ける。
寄りかかっているチョコボも彼の胡座をかいた足に寄り添うチョコボも静かに目を閉じていてその腹の起伏の大きさから寝ているのだろうか、安心しきったように見えた。



「貴方はチョコボに好かれているんですね」



言って、未だまとわりつくチョコボからなんとか抜け出して彼の隣に座り込む。そっと黄色の体に寄りかかれば見た目通りフカフカとした感触が気持ちいい。
座る僕の周りにいそいそとくっついてくるチョコボに苦笑いすれば彼はちらりと視線をよこして何かを思い出したように目を細めた。



「俺の幼馴染もお前みたいなタイプだったな。生き物にとても好かれる。俺には見向きもしないのにあいつにはべったりとくっついていて子供の頃は少し羨ましく思った」



珍しく言葉の多い彼はフッと自嘲するような笑いを漏らした。



「生き物は優しい人間と卑しい人間と、そんな気配に聡いのだろうな」



そう言うと僕から顔を背けて花の咲く辺りを眺める。ポツポツと咲いた色とりどりの花と太陽に煌めく草原が綺麗で緩い風に乗って届くいろんな匂いが心地よかった。
なんとなく。その背中に寂しさのような憂いのようなそんな明るくない雰囲気を感じて困惑してしまう。おそらくは僕の言った言葉に何かしらを考えているらしい彼に迷ったあげく声をかけた。



「生き物は…」



呟けば微かに彼が振り向く。横目で僕を見るその顔に続ける。



「生き物は確かに人の雰囲気に聡いです。本能なのかな、いい人か悪い人かがよくわかってる気がします。でも…」



ちらりと横を見れば未だ彼に寄り添って眠るチョコボがいる。人懐こいとはいえ自然のチョコボがここまで大きな寝息を立てているのは。



「でも貴方は生き物にとても好かれていると思います。貴方が思うよりずっと。貴方はそう言うけど彼らは貴方の優しさをよくわかっていて…だから、貴方はいい人だと思います」



話しているうちに何が言いたかったのかわからなくなる。まとまらない言葉にうまく言えないけど…と付け加えれば彼は一言、そうかと言っただけだった。



それきり黙り込む彼になんとなく居心地の悪さを感じて隣のチョコボにお前もそう思うよね?と話しかけたが当然答えはなかった。ただ大きな目をクリクリと動かして不思議そうにするチョコボに苦笑いしながら頭を撫でようと手を伸ばす。触れようとしたその時、僕より先に細い手が黄色の頭に乗せられた。



「おまえが思うほど俺は善人ではないぞ。おまえを助けたのもこうして行動を共にしているのも魂胆があるとは考えないのか」



そう言って静かに僕を見る彼に確固たる確信を持って頷く。貴方は悪い人ではないですと言い切れば彼はもうそれ以上何も言わなかった。



「…行くぞ。」



軽く黄色の頭を叩いて彼は立ち上がる。その彼の後ろ姿を名残惜しそうに見送るチョコボ達に、やはり彼はいい人なんだとそう思えた。









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