それは気づかせぬよう




「今日の隊務は以上だ。」



皆、ご苦労だったと言葉をかければ綺麗に揃った返事が返ってきた。それにひとつ頷くと各々散り散りに去っていく。王宮にある寮に帰る者、町の自宅へ帰る者。それぞれが自分に背を向けて去っていく中、毎回自分の元に走ってくる者が一人いた。



「お疲れ様です、部隊長」



まっすぐに自分の元に来ると一緒に帰ってもいいですか?と笑顔で見上げてくる。帰るも何もここは王宮の中庭なのだからほんの僅かな距離なのだが。
毎度の事ながら連れ立って自室へと歩く。歩く道すがら今日の出来事や戦闘に関してのアドバイス、時には夕食の献立などたわいもない話をするのがここ最近の習慣になっていた。
中庭から王宮内部へと進むと自分の部屋はセオドアの部屋の途中にある。自分の部屋が近づくにつれそわそわとしだすセオドアに小さく苦笑してしまう。



「カインさん、少しだけ寄っていってもいいですか」



毎日毎日自分の部屋に上がっていくくせに毎回確認を取るあたり律儀な子だと思う。扉を閉めると抱きつかれる事がわかっているのに招き入れる自分も大概だとは思うが。



「年増の男に抱きついて楽しいのか」
「カインさんだからですよ。」



少し下から聞こえる声は心底嬉しそうで。鎧を纏っている体に抱きついたところでなんの面白味もないと思うが彼にとってはその接触ですら嬉しいらしい。日ごとに背が伸びている気がするセオドアの背中を軽く叩けばより強く腕に閉じ込められた。






いつだか中庭の庭園で口づけられた時にまさかとは思った。けれど確かめたところで自分は何も答えられない。結局その時は問う事は出来なかった。
それからしばらく気づかぬふりで静観していたもののセオドアの自分への態度に確信を得た。だがセオドアは弟子であり親友の子だ。歳だって20以上も離れている。好きですと言われたところで正直そんな対象には見られなかった。






「カインさん、キスしてもいいですか。」
「…ああ。」



だが。自分は片思いの辛さを知っている。想い人に自分の手が届かない苦しみを知っている。何年も何年も抜け出せないあの苦しみを知っている自分だからこそ、セオドアにそれを味あわせたくなかった。セオドアからの接触は拒まない。だがそれはセオドアが好きだからではない。この子を大切に思えばこその自分なりの優しさだった。今は俺に向けられている想いもまだまだ少年である年頃、いつかはどこかの女性に向くだろう。それまではただ受け入れてやろうと、そう思う。



「好きですカインさん。」
「…そろそろ夕食の時間だろう。着替えて行こう。ローザとセシルが待っている。」



少しだけ背伸びして俺の髪や頬に口づけているセオドアの肩を軽く叩けば名残惜しそうに腕が解かれた。自分とは違い喜怒哀楽がわかりやすい彼に少し笑ってその銀髪に口づけを返す。髪を押さえて笑う顔にこの子が傷つかないのならこれでいいと少し逞しくなった背中を撫でた。













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