大人の階段A



風邪をひいたわけでも痛めたわけでもないはず。なのに話している最中に声が掠れて尻すぼみに消えていくことが最近多くて怪訝に思う。掠れるだけでなく変に高くなったり低くなったり不安定な声に、あーだとかうーだとか首をかしげながら朝食の席に着く僕とは反対にそれに気づいた父母は嬉しそうだった。



「まあ、セオドア。声変わりしてきているのね」



感激!とばかりに口元を手で押さえながら微笑む母親に声変わり?と聞けば母の肩越しに見える父親もにっこりと笑った。



「学校でも習っただろう?大人に近づいてる証拠だよ。最近背も伸びて体つきもしっかりしてきたしね」
「声が出しにくい…もっと突然変わるものかと思っていました」
「徐々にだね。だんだん変わっていって少し経てば落ち着くよ」



父親と話している間にも掠れる声に喉元を抑えれば以前よりも存在感のある喉仏が指に触れた。



「僕の声、低くなるかな」
「どうだろうね。僕が低い声ではないからセオドアもあまり低くはならないかもしれないね」



低い方がいいのかい?と困ったように笑う父親にそういうわけではないけど…と食卓のミルクを飲む。
声にこだわりはないけれど、どうせなら彼のように艶のある低い声がいい。男性の特権である低い声を彼は持っていてとても聴き心地がよく格好いい。戦場でもよく通る。父親の高めの声も好きだし周りはその柔らかな声を素敵だとか甘い声だとか褒めるけど僕は彼の低い声の方が数倍甘く色気があると思う。



「セオドアの可愛らしい声もあと少しね。名残惜しいわ」
「もう聞けないと思うと確かに名残惜しいね。だけど大人になっている証拠だからね、喜ばしい事だよ」



両脇から抱きしめられて気恥ずかしくも抱き返す。小さい時と変わらない父母に子離れ出来るのかなぁと思わず笑ってしまった。










「あー…あー!…あー」



休みである今日、朝食も取り終わったし中庭で鍛錬でもしようと王宮の廊下を歩く。道すがらオウムよろしく同じ音を呟き続けている。同じ音を出しているつもりなのに上手くいかない自分の声に違和感と少しの煩わしさと少しの楽しさを感じる。身長がぐんぐんと伸びた次は声変わり。鍛えても鍛えてもどこか頼りなかった体も父から言われた通りがっしりとしてきた。確実に変わっている自分。早く大人になりたいと思っていたから目に見えるその変化がとても嬉しい。



「あー…あー!…あ」
「何してる?」



ご機嫌で歩いていた僕の横目に見知った金色が映った。はっとして横を向けばちょうど部屋から出てきたらしいカインさんがいくつかの書類の束を持ちながら気味悪そうに僕を見ていた。



「どこか痛むのか?」



思えば剣をぶら下げてあーあー歌いながら廊下を進む僕はもしかしたら気持ち悪かったかもしれない。
というか確実に不気味…?
慌てて否定すれば察しのいい彼の事、僕の声の変化に気づいたようだった。



「ああ、変声期か。お前ももうすぐ大人の仲間入りだな。おめでとう」



そう言って微笑む彼は父親と同じ質問をしてきた。全く同じ質問に笑いながら僕はどちらでも…と言いかけてやめる。隣に立つカインさんの手を取った。



「低いほうがいいかな。父のような声も好きですけど」
「なぜだ?」
「…鍛錬付き合ってくれませんか」
「秘密か?まぁいいが」


握った手に軽く口づける。だって男として好きな人の名前は渋くかっこよく呼びたいじゃないですか。という答えは心にしまっておいた。


















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