つい、おせっかいを。
年の瀬も迫る今日、王宮はたくさんの客人で賑わっていた。今日は家族や大切な人と共に過ごすと決められている日で(ー遥か遠く異国の地ではクリスマスと言うらしいがー)この日ばかりは無礼講で隊士たちも鎧を脱ぎ、貴族も王族も関係なくなごやかなパーティーが開かれている。
僕もいつもの鎧姿ではなくパーティー仕様の少しかっちりとした服を着ている。この日のために新調しましょうかと母親が仕立ててくれたが未だに服に着られている感じが拭えない。筋肉モリモリ予備軍と呼ばれた事もあるから貧相な体ではないと思うけれど、もう少し身長が伸びないとこういう服はどうしても格好がつかないのだ。
父親も母親も背が高いから僕も伸びるとは思うけど。早く伸びないかなとなんとなく触った頭に誰かの大きな手が重なった。
「よお。今日は一段と男前だな。」
「エッジさん!エッジさんこそいつも通り格好いいです。」
エブラーナの服はやはり異国の服の作りで前で合わせる変わった造りをしている。けれど彼のすらっとした体格によく合っていて大人の色気とはこういう事だろうなぁと思わずにはいられない。
素直に褒めたつもりだったが彼は豪快に笑うと僕の頭を混ぜ合わせた。
「うまいこと言うようになったな!その調子で女の子の一人でもひっかけてきたらどうだ。」
「エッジさんとは違いますから。僕は一途なんです。」
言えば彼は大袈裟に肩をすくめる。心外だなーと悲しむふりをした。
「俺だって一途な男だぜ?好きな女には命だってかけるぜ」
「そう言いつつ目が女の人を追ってますよ。」
「ばれたか」
声を出して笑う彼は僕と肩を組むと内緒話のように顔を近づけた。父親やカインさんとはまた種類の違う美形の顔が真横にあるとなんとなく落ち着かない。少し戸惑ってしまった僕をよそにエッジさんは楽しそうな声で続ける。
「セオドアもお年頃だよな。どんなやつが好みだ?」
おじさんに教えてくれよと笑う彼は矢継ぎ早に髪型は、体型は、やっぱり顔かと質問してくる。その顔は心底楽しそうだ。
「僕はそういうのはまだ…」
「嘘つけ。俺がお前くらいの歳にはもう片手じゃ足りないほど好きな女がいたもんだ」
「エッジさんと僕は違うって……そうですね、金髪の人が好きかな」
ニコニコと笑う彼に、答えるまで開放してもらえなさそうだと誰とは言わずにはぐらかして答える。エッジさんはほおーとよくわからない声を出すと広間を見渡した。
「金髪ね。後は?」
「…細身かな」
「金髪、細身。後は?」
「……笑顔が綺麗です。」
そう彼は。色味の薄い金髪に無駄な肉の一切ない薄い身体。けれど決して貧弱ではなく実戦向きの筋肉が身体を覆い、鹿のようにしなやかな身体をしている。そしてたまに、本当にたまに見せる笑顔。最近は前よりも微笑む事が多くなった気がするが彼の笑顔は貴重なものだ。だからこそたまに見れると嬉しさが胸に広がる。
「カインが好きとはお前も物好きだな」
そうかもしれないですねと思った瞬間固まる。ぐぎぎと音がしそうなほどぎこちなく横にある顔を見れば彼は、ん?と可愛らしく小首を傾げた。
「違ったか?カインのやつだろ」
「…なぜそう思いましたか」
「だてに歳食ってないぜ。恋愛に関しては百戦錬磨のエッジさまを舐めるなよ」
ふんと笑顔で鼻を鳴らす彼は依然僕と肩を組んだまま少し声をひそめる。楽しそうな顔に対して降ってきた声は真面目だった。
「安心しろよ。俺がそういうのに長けてるだけでセシルも他のやつも、ましてや鈍感なカインなんて気づいちゃいねーよ」
「…はい。」
「それに俺は誰が誰を好きになろうがその気持ちが真剣なら自由だと思ってる。だからお前…」
頑張れよとニカッと笑うエッジさんは僕の頭を取れそうなほど撫で回した。ぐわぐわと揺れる頭に俺はお前が可愛いんだと彼の優しい声が聞こえた。
「っと。お師匠様が来たから俺は逃げるかな。」
ぐらぐらと揺れていた頭が突然離されて少しふらつけば大きな手が背中を支えた。
「俺の弟子に変な事を教えてないだろうな」
「おいおい、変な事ってなんだよ。」
全くどいつもこいつも俺をどう思ってやがると眉を上げる彼に対して真上から呆れたようなため息が聞こえた。
「肩を組んでなにやら話しているから来てみたが正解だったようだな」
「待てよ、本当に変な事は教えてないぜ。ただの世間話だよ」
なあセオドア?と覗き込んでくるエッジさんは僕にまた笑うと僕の胸を押した。とっさの事に踏ん張れず後ろにいるカインさんに抱きとめられる。それを笑って見届けるとじゃあなーと軽やかな声と共に去って行ってしまった。
「…一応聞くが本当に世間話か?」
後ろから抱きしめられているような形に動けずにいるとカインさんは僕の顔を覗き込んできた。遠ざかるエッジさんの背を呆れたように見るその顔に少し笑えば彼は怪訝そうにする。
「頑張れって励ましてくれたんです」
「何をだ?」
「それは僕とエッジさんとの秘密です…でもいつかカインさんにも教えますね」
だから待っててくださいと笑えば彼は不思議そうにしながらもわかったと頷いてくれた。エッジさんの姿はもう広間の人に紛れて確認出来なかったけれど暖かなぬくもりはまだ頭に残っていた。
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可愛い親戚の子につい構ってしまう叔父さん。みたいな(笑)
そんな関係の王子様が好きです