多分慰めてくれた



山を下ってバロンへ向かうために森を抜ける。ただでさえ広い森に昼夜を問わず襲ってくる魔物のせいで逸る気持ちとは裏腹になかなか先へ進めなかった。


例によって日が落ちると共にテントをはる。軽い煮炊きを済ませると汗でべたつく身体が気になった。



「近くに滝壺があったな。」



いい機会だから水浴びをしておこうと彼は立ち上がる。今までにも数回水浴びをした時を思い出す。最初に彼が手早く水を浴びているのを剣を構えて見張る。それが終われば交替で彼があたりを見張る。丸腰で魔物に襲われたらひとたまりも無い。自分と彼の剣を小脇に抱え滝壺へと向かった。



「すぐ戻る」



男同士といえど一応気を使って滝壺に背を向ける形で座り込む。その僕の背に言って彼が水の中へ入る音がした。
パシャパシャと小さく跳ねる水の音だけが響く。彼の髪が長いという事に気づいたのは結構最近だ。初めて水浴びをした時にぐるぐると巻きつけてあるターバンから見事な長い金髪が流れたのをみて驚いた。


母親も金髪だが彼ほどストレートではない。父親もふわふわとした猫っ毛のような髪質だ。彼のように風に靡く絹糸のような髪は見たことがない。



「…何してる」



自分も猫っ毛の部類なのかと髪を引っ張っていると突然後ろから声をかけられ思わず肩が跳ねた。癖なのか意識してなのかは知らないが気配を殺すのは驚くからやめてほしい。



「終わったぞ。」



長い髪から水滴が滴っている。無造作に拭いているのにひとつも絡まない髪は見事としか言いようがない。



「…僕も入ってきます」



髪が綺麗だと褒めようとしたけど何と無く気恥ずかしくて思いとどまる。入れ違いに座る彼の背中を確認して自分も水に入った。



それほど高くない滝からたまる滝壺は水の流れは早くない。滝の真下の窪みにさえ入らなければ溺れる心配はないだろう。
頭も洗おうと思い切っててっぺんまで水に浸かった時だった。
月明かりに照らされて少し離れた水底にきらりと光る物が見えた。怪訝に思って目を凝らした瞬間、長い触手が左手と右手を絡め取る。そのまま水底にひきづりこまれた。


間近で相手を確認すれば普段ならば僕でも倒せる何てことはない魔物だった。だが丸腰な上に両手を一括りに纏められているこの状況はまずい。
何とか彼に伝えなければと必死にもがけばもがくほど相手の拘束の力も強くなる。なす術もなくどんどん水底に引っ張られ息が大きく肺から抜けた。ゴボゴボと音を立てながら水面に浮かんでいく気泡を見つめてもう駄目だ…と諦めかけた刹那、水が大きく切り裂かれた。
僕の頭すれすれを抜けた剣は一分の無駄なく確実に魔物の頭を捉えた。一瞬で絶命した魔物から僕を拘束していた触手を切り取る。次いで大きな手が僕の肩を抱くと力強く水面へと水を蹴った。



「気づくのが遅れた。大丈夫か」



剣で触手を外しながら咳込む僕の背中を叩いてくれる。頭からびっしょりと濡れた彼の金髪から雫が落ちるのがなんとなく目についた。



「ありがとうございました…すみません助けてもらって」
「いや。大事なくてよかった」
「あの…すみません、水が…」



なんとなくバツが悪くて言葉を濁せば彼は頓着なくこんなものすぐに乾くと髪をかきあげた。

これからはあまり深みには行くなとそう言って彼は立ち上がる。もう一度言ったお礼には一暼しか返ってこなかったけど去り際にほんの微か彼の手が頭に触れた。



撫でるとは言えないほどの微妙なその手に彼の優しさを感じた気がしてスタスタと遠ざかる背中にもう一度礼を言った。




















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