本心は隠して



王宮では年に何度か大きなパーティーが開かれる。外交の為だったり父母の記念日だったり理由は様々だったけど各地からたくさんの人や見知った顔が集まるこの催しが僕は大好きだ。
それに堅苦しくならないようにとの父母の心配りからいつも立食形式なのも気に入っている。



「相変わらず楽しそうにしてんな。そんなにご馳走が食べられるのが嬉しいのか?」
「それはあんたでしょ。食べすぎてお腹痛くなっても知らないんだから」



不意に声をかけられて振り返れば口いっぱいに食べ物を詰め込んだパロムと申し訳なさそうに見上げてくるポロムがいた。
もぐもぐと口を動かしながら話しかけてくるパロムは目新しい食べ物はないかときょろきょろしている。



「久しぶりパロム、ポロム。みんなに会えるのが嬉しくてさ。料理ももちろん美味しいけどね」



茶化すように笑うとポロムがより一層申し訳なさそうにする。あちらにアーシュラさんもいましたわとあからさまに話を逸らす彼女が面白かった。
そんなポロムを横目で見つつパロムは耳を貸せとの仕草をする。
素直に顔を寄せればあいつはいないのかと悪戯な声で耳打ちされた。



「あいつって=v
「あの澄ました顔の竜騎士だよ。お前パーティーの時はずっとあいつ見てんじゃん?今日はいないのか?=v



気を使ってこそこそと話してくれるパロムの顔は声とは裏腹に面白そうなからかうような顔をしている。
思わず顔に熱が集まった。いつだか年の近いパロムに彼のパーティーの時の美しさには見惚れてしまうとポロっと言ったことがあるのだがよく覚えているものだ。



「何をこそこそお話しているの?」
「ポロムが逆立ちしてもなれないような可愛い女の子があっちにいたぜって教えてやったんだよ。」
「まあ!セオドアはそんな下世話な話はお嫌いよ。あんたと違ってね!」



憎まれ口を叩くパロムと腰に手を当てて怒るポロムを宥めつつそういえば、と思う。
先ほどから彼の姿を見ていない。
実は細身なその体にはパーティー仕様のかっちりとした服装がよく似合う。いつもの鎧姿も凛として格好良かったが高い上背に纏う黒の服はより一層彼の美しさを引き立たせていた。彼が広間に現れるだけで女性陣の感嘆の声が聞こえるほどに。



「僕少し席を外すね。二人とも楽しんで」




未だ言い合いを続ける二人に断って、彼を探そうと広間を出た。










大抵は静かなテラスか広間の側の廊下にいたりするのだけれど今日はなぜか見つからなかった。
最初の挨拶と最後の挨拶にはいつも戻っているから帰ってしまったわけはないだろうけど。
諦めてそろそろ広間に戻ろうと踵を返してしばらく、階段下の暗がりからふたつの話し声が微かに聞こえた。
その声の主に気づいて慌てて気配を殺す。柱の陰に隠れて耳を澄ませた。



「相変わらずパーティーは嫌いかい?」
「挨拶はしたんだ。もう良かろう」



そうだけどさ、と笑う声は柔らかいテノール。もうひとつの声は聞き心地の良いバリトン。いつからか姿が見えなかったふたりは揃って息抜きに来ているらしかった。



「美男子がいると場が華やぐからね。お前がさっさと消えてしまうから会場のお嬢さん方がため息をついていたぞ」
「俺は客寄せパンダではないぞ。それに姿のいい男ならお前の方が女受けするだろう」
「僕は愛する奥さんと可愛い子供までいるからね。もう駄目だよ」



何を言ってると可笑しそうにふたつの声が笑う。たわいもない軽口の言い合いに盗み聞きしているのが申し訳なくなる。だけど普段は凛とした彼が砕けた雰囲気で話すのが新鮮でその場から動くのが惜しかった。




「ならその愛する奥さんと子供を放っておいていいのか。今ごろどこぞの男か姫さまがふたりを口説いていたりしてな」
「それはいらない心配だね。セオドアはいざ知らずローザは僕一筋だから」
「どこから来るんだその自信は」



くつくつと笑う声がふいに自分の名前を呼んだのでどきりとする。



「セオドアはそろそろ好いた子でも出来たのだろうか」
「どうだろうね?あの子はその手の話は僕にもローザにもしないから」



ほう、と黙り込む声に続いて男の子なんだから好きな女の子のひとりくらいいるだろうと笑う父親の声がした。
好きな人はいる。女の子ではないけれど。



「セオドアは真面目過ぎるから心配でな。」
「確かにそういう素振りは見せないけどね。まぁまだ少年だもの自然に好きな人もできるよ」



この間それらしいことも少し言っていたしねと笑う声に居た堪れなくなり柱から背を浮かせた。が、時にお前はどうなんだいと問う父親の声に背中を再びくっつける。
カインは好きな人はいないのかいと聞く父親の声は先ほどよりも真剣な切ないような響きをしていた。



「どうだろうな。安心しろお前が思っているような感情はもうないさ」
「カイン…」
「それに今は可愛い弟子の育成に手一杯で他のやつにうつつを抜かしてる暇がなくてな」
「うまくはぐらかされた気がするな」
「本気で言ってるよ。今はあいつの成長を見る方が楽しいんだ」



広間のドレスを見るより何倍もなと茶化して笑う彼に父親の笑い声が被った。
そうかとひとしきり笑いあうと広間へ戻ろうと足音が連れ立って遠ざかっていった。
カインさんに好きな人はいないのかと変なところで安心しつつ嬉しさで顔が赤らむのを感じた。他の人よりも僕を見ている方が楽しいと彼は言った。彼にしてみれば言葉通りの意味でしかないだろうけど。
他の人が入る余地はないとポジティブに考えればそう思えてドキドキと胸が高鳴る。例え自分と彼の思いが違っていてもこのまま彼のそばにいられるならそれでいい、と思った。














「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -