一瞬の接触



花に囲まれて本を読むとはなんともロマンチックな事だと我ながら思う。
自分やセシルが騎士として過ごしていた時にはバロンの王宮に庭園などなかった。
殺風景な城だと常々思っていたがセシルが王の座に就きローザが王妃となりいつの間にか花が咲き誇る中庭が出来ていた。

その庭を見渡せる位置に置かれたベンチに座って本など読んではいるがこれが可憐な少女だったならさぞ絵になる事だろうと思う。




「落ち着かんな。」




自分で選んでおいてなんだが本に集中しようとしても目の端に色とりどりの花がちらつきその華やかな匂いも合間って全く頭に入らなかった。
気分転換にと外に来たが自室の方が読書には向いていたかもしれない。


本を読むのは諦めてベンチにゆったりと身を預ける。
潔く諦めてしまえばゆるい風に花の香りが心地よかった。久しぶりの休みなのだから少し眠ろう。
昼寝には最適な場所だなと目を閉じる。まどろみはじめながらふと、最近様子のおかしい王子の事を思った。



最近のセオドアは勉学にも剣術にも身が入っていない様子なのだ。自分を見つめて惚けていることがしばしばあった。悩み事かと聞いても頑なに、なんでもないと繰り返すばかり。
悩みがあるなら力になってやりたいが当の本人が頑なに隠すものだから力の貸しようがない。
思春期も真っ只中だから悩みが尽きないであろうが…などと考えているうちに意識はどんどんと薄れていった。








もともと眠りの浅い自身のこと、近づく足音に意識は引き上げられ名を呼ばれた時には完全に覚醒していた。
いつもなら即座に答えてやるが今日は狸寝入りを決め込む。眠る前に考えていた人物が何度も真剣な声色で名を呼ぶからつい構いたくなったのだ。




何度目かのカインさんと強めの呼びかけにそろそろ答えてやるかと目を開こうとした刹那、身を屈める気配がした。ふんわりと太陽の匂いを感じた直後微かに自分に別の体温が触れる。
一瞬だけ押し当てられたそれはそろりそろりと慎重に離れ、次いで慌てたように走り去っていった。




目を開き足音を追えばやはり銀色の髪が王宮の中へと消えていった。




「どういう意味だ…」




寝たふりをした自分が悪いのだが自分の考えていたセオドアの取るであろう行動をはるかに越えたそれに困惑する。
中庭で寝ている俺を見つけてキスをするというどう考えても脈絡なく正常ではない思考回路に思わず眉を寄せる。
セシルやローザがセオドアにするような額に触れるものならまだわかる。
師匠であり20も歳上の男に唇にするキスなど意味がわからないが。




「気まぐれか?」




いや、気まぐれでこういう行為をするセオドアではない。確信犯ならますます意味がわからない。モヤモヤと考え込んでいるうちに日が落ちてきた。これは近いうちに問うてみなければなるまいなと独りごちる。




そういえば最近の様子のおかしかった彼を思い出してまさかな、と自嘲する。ひとつの可能性が脳裏に過ぎったがあり得ん事だと頭を振った。








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