慰めるのは難しい



夕暮れが王宮の廊下をオレンジ色に染める。その日の業務も報告も済ませ自室に戻るためにカインは廊下を歩いていた。窓から見える夕陽が美しくつい気を取られ曲がり角を走ってきた人物に気づくのが遅れ勢いよくぶつかる。



「ーー!すまない…セオドア…?」
「……!」



とっさにぶつかってきた人物を抱きとめれば驚いたように顔を上げ自分の顔をまじまじと見上げた。すぐに顔を隠すように俯いてしまったがその頬には確かに涙の後がついていた。



「どうした?」
「……」
「学校で何かあったのか」



制服姿のセオドアを見ての言葉だったがどうやら当たっているらしく俯いたまま銀の頭が小さく頷いた。


無言のセオドアに理由は言いたくない様子を察してひとつ頭を撫でる。
ピクリと肩を揺らしたセオドアは堪えきれなくなったのか勢いよく胸のあたりに抱きついてきた。泣きながら鎧に顔を押し付け背中に手を回ししがみついてくるセオドアに戸惑いとりあえず抱き返してみる。



「…夕陽が綺麗だ。見に行くか?」



そばのバルコニーを示せばセオドアは大人しく頷く。出来るだけ優しくその背中を押した。







「珍しいな。お前が泣くなど」



並んでベンチに座って夕陽を見ながら風にあたる。秋も深まった今時期の夕焼けは美しく、少し冷たい風が心地よい。
なんと声をかけようかと逡巡したあげくストレートな感想を投げかけた。元来自分には湾曲な言い回しなど出来はしない。うまく理由を聞くことも慰めることも出来ないのはわかっていたからせめて素直に思ったことを言った。



「…学校の友達と喧嘩をしてしまって。」



少しの迷いを見せた後セオドアがぽつりと呟いた。



「友達が言った言葉がどうしても無視できなくて注意したらお互いに熱くなってしまって。」



でも冷静になったらもっと他に言い方があったかもしれないと後悔して涙が出てしまいましたと元気のない声は言った。


言葉を選んで告げられた理由に詳細な内容はわからなかったが思春期の多感な年頃だ。注意するうちに売り言葉に買い言葉で自分を見失ったのだろう。自分も少年時代にはセシルと時々そのような喧嘩をした記憶がある。



「お前は優しい子だなセオドア。」
「そんなことないです…」
「いや、理由は知らんが喧嘩するうちに友達を傷つけてしまったのではと後悔したのだろ?」
「…はい」
「その涙も友達を思えばこそ後悔と自責の念からくるものだろう。怒るばかりではなにも生まれん。何がいけなかったのか考え後悔するのはいい事だ。」



そうして人は成長していくのだからなとまた頭を撫でればセオドアの瞳がまた潤んだ。
セオドアは純粋なとてもいい子だ。父親似の生真面目さと強さ、母親似の優しさを持っている。柔らかな言葉使いからも周りの人の事を思っているのがわかる。だがしかしまだ大人への階段を登り出したところだ。時には少年らしく素直に怒ることも泣くこともあるだろう。


セオドアは潤んだ瞳から涙が零れる前に手のひらでそれを拭いいつもの人好きのする笑みを浮かべる。



「…明日友達に謝ろうと思います」
「友達もきっとお前と同じ気持ちさ。」



自身の少年時代が思い出される。セシルと喧嘩をした日はひどく落ち込み言ってしまった言葉への罪悪感と後悔に泣いたものだ。
しかし次の日に謝りに行くと決まってセシルも泣きはらした目で謝りにくるのだった。



「甘えてしまってごめんなさい。ありがとうございます」



涙を拭いニコッと笑うセオドアに微笑を返す。仲直り出来るさと頭を撫でれば急に照れ臭くなったのか少し赤い顔であらぬ方を見る。視線を追えばちょうど太陽が地平線に沈む所だった。



「明日、がんばれよ」
「はい。…カインさんありがとう」



セオドアの言葉に頷いて空を見る。白く輝く月が王宮を美しく照らしていた。






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