ひとしきり泣いたアンはプレザに謝ると笑った。「忘れなきゃね」と。
「アン…」
「えへへ、だって私、ガイアスについてくって決めたんだもの」
もう1本だけ、と窓際で煙草を吸い、月を見上げて、プレザに見られないように、アンは一筋涙を流した。
「さ、寝よっか
明日から、私も忙しいみたいだし」
「そう、ね」
「…大丈夫だよ、」
心配そうにアンを見るプレザを安心させるように、アンはにっこりと笑ってみせた。
私は、弱くない。
「私は、弱くないもん」
深夜。
アンも眠りに落ちたころに、アンの部屋の扉が開く。静かに開いた扉の先にいたのはア・ジュール王、ガイアス。
「陛下」
「…一緒にいたのか」
「はい、今日はアンと」
そうか、と言ったガイアスに、プレザは問う。なぜ、アンを同行させたのかと。こうなることを、少しも心配していなかったのか、と。
「…信じているからだ。
アンは、俺を裏切ることはしない」
言い切ったガイアスの言葉に、プレザは切なげに笑いアンを想う。
「この子は優しい子です。そんな子に、今回の任務はやはり…」
「乗り越えられぬ者は、俺の周りにはいらぬからな」
「アンは、乗り越えられると?」
そうだ、と答えたガイアスに、プレザは何も言えなかった。この子は、とても弱いのに。今まで支えになっていた四象刃とガイアスではなく、アルヴィンに心安らいでいるというのに。この子の幸せを、奪うなんて。
プレザもアルヴィンを想っているのだ。けれどアルヴィンの目は自分を写してなどいなかった。アンを目で追っていた。見たことのない笑みを浮かべていた。アンがアルヴィンを想っていると悟ったとき、アルヴィンがアンを想っていると分かったとき。プレザは諦めていた。むしろ、応援していた。アンの恋を、アルヴィンの幸せを。
ガイアスが自室に戻りプレザは眠るアンを見る。柔らかなミルクティー色の髪を撫でて、儚げに笑った。
「貴女には、幸せになってほしかった」
友からの願い
20130116
プレザ視点でした。
もうそろそろ厄介なシーンになります。
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