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部族の大会

鐘が、鳴った。


闘技島までは小船に乗っていく。闘技島はストレス発散に通っていたし、任務でも来ていたから特に不思議なことはなかった。


「ひゃ、」


どん、と突然何者かにぶつかられた。尻餅をつき、"痛い"と小さく漏らした。"大丈夫?"とジュードとエリーゼが来て、ジュードが腕を引いてくれた。手の平には小さく畳まれた紙。其れは、アルクノアからの物だった。男、アルヴィンが一瞬だけ眉を寄せたが、直ぐにいつも通りになり、"おいおい大丈夫かぁ?"と頭の後ろに腕を回して此方を見ていた。


「大丈夫、もう始まるんでしょ?行こう」
「そうだな、行こう」


手紙は、終わった後でも間に合うだろう。トイレとでも言って抜ければいいだけだ。戦闘は楽勝だった。いつもの様にアルヴィンと共鳴しての戦闘で、不本意だが戦い慣れた私は共鳴術技で数秒で絶命させた。終わって、決勝は昼からだと食事を先にすることになった。

その隙に、トイレだと言い、輪から抜けた。ポケットに入れたままの手紙を広げると、食事を食べるな、ということだけ書いてあった。食事、…食事だと?


「駄目!」


扉を開けると、いままさに其れを口に運んでいるアルヴィンがいた。そこまで飛んで、手に持っていたスプーンを弾いた。


「おいおい、なんだって」
「…毒だ」


ミラが呟いた。周りを見れば其れを口にしたのであろう人達が次々に倒れていった。アルクノアは、そこまでしてマクスウェルを始末したいのか。
それにしても、この男だってアルクノアなのに知らされていなかった、?


「…おいおい、洒落になんねぇぞ」


乾いた笑いが聞こえた。きっと、アルヴィンもアルクノアの仕業だと気付いたのだろう。そして、アルクノアの仕業だと言った後に、自分もアルクノアであると告げたのだ。驚きを隠せないパーティ。私も、驚いた顔を作ってみせた。

死人が大勢出た中、生きていたのは私達だけだったそうで、決勝は後日日を改めて行うことだけ告げられた。それまで宿屋で自由に過ごすことになり、私は一人宿屋をでた。

小さな酒場でガイアス様に手紙を書いた。アルクノアによって毒殺があったこと、マクスウェル一行が優勝を条件にワイバーンを借りるということ。現在空を飛ぶことは危険だからその部族の代表とガイアス様に許可をとるということ。愛鳥のハロウの足に手紙を付けて、人知れず飛ばした。直ぐにプレザが知り陛下に伝わるだろう。

外に出て、アルヴィンの母親のいる場所まで来た。中から声は聞こえないことから、もういないのだろう。静かに開けると、彼女…レティシャさんが"だぁれ?"と発した。

「お久しぶりです、アミュレインです」
「あら、久しぶりね」
「お加減はいかがですか?」

「さっきね、アルフレドが来てくれたのよ」
「そうだったんですか
息子さん、元気でした?」
「それがね、無理しているみたいだったのよ」


彼女は、極稀に正気を取り戻すことがあった。私は正気の彼女と数回会っており、私の名前も覚えてくれていた。彼女はいつも"アルフレド"と息子の名前を呼び、息子が無理をしているのでは、悪いことや危ないことをしているのでは、と心配していたのだ。

こんなに良い母親に心配ばかりかけて、あの男はなんて親不孝なんだといつも感じていた。プレザからもアルヴィンの話しを聞いていたし、プレザの想いだって知っていた。面倒見のいいプレザは、アルヴィンの駄目っぷりに惹かれてしまった、ということもあるのだろう。


「ねぇ、アミュレインさん」
「なんですか?」
「私が死んだら…アルフレドをお願いね」

「何を言ってるんですか、元気になって息子さんとエレンピオスに帰るって」
「…そうね、」


彼女は知っているのだろう。アルヴィンが何をしているのかも、自分が長くないことも。私が、アルヴィンと関わりが少なからずあることも。


「あの子は、不器用なのよ。寂しがり屋で、」
「えぇ」
「あの子の拠り所になってあげて、」


言って、直ぐにレティシャさんは正気を失った。子を思う母の優しさに、少しだけ、涙を流した。



部族の大会。



(拠り所、ね。)
(私には居場所があるから)



20111009

本日、ランキングに登録させていただきましたー。

この辺り、結構曖昧なんでゲームと違うところばっかりかもしれないけど許してください(じゃんぴんぐ土下座Σ)

ひぐら

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