TOX | ナノ

霊力野、黒匣






『…艦内の侵入者を一名確保…戦闘要員は急行せよ…』

「ひゃっ…な、なに!?」


アルヴィンのポケットから突然聞こえてきた声にアミュレインは驚いて警戒する。アルヴィンはポケットから通信機を取り出すと「コレだよ」とアミュレインに見せる。「なにコレ」と首を傾げたアンに「通信機だよ」と告げると、「ツーシンキ?」とまた首を傾げた。


「今、声聴こえただろ?
連絡取り合うのに使うんだよ」
「…へぇ、エレンピオスってやっぱすごいわね…」


まじまじとそれを見ていると、ガガ、と通信機が鳴り、記憶に新しい声が聴こえてくる。


「イバル…だよね?」


助ける?とミラに問うもミラは首を振って全てを終わらせてからでいいと言う。すると船が揺れだし、「精霊がまた大量に消滅した」とポツリ、呟いたミラは空を見た。


「クルスニクの槍を使ったってことか」
「急がないと!」


アルヴィンは歯を食いしばった。そんなアルヴィンを見てアミュレインはそっと手を握る。アルヴィンはアンを見て、落ち着きを取り戻し「悪ィ」と目をそらした。

空を見上げていたミラはジュード達を見ては頷いて、ジランド目指して艦内に向かった。




「すごい…!」
「わ、お城みたい!
アン、見て見てっ!」
「…はいはい、見てるわよ」
「もう、つれないなー」


レイアは口を尖らせてアンを見ては、腕を絡ませた。また、一緒に行動できること、アルヴィンとのこと、アンの雰囲気が変わったこと、ギクシャクしてるけど、それでも前とは違い話しをしてくれるようになった。レイア、エリーゼはそろが嬉しくて仕方なかった。


「…これで戦艦なの?」
「違うよ。このジルニトラは20年前、エレンピオスの海を旅した旅客船だ」


20年前に断界殻の一部が敗れたときにこっちに来ちまったんだ。

アルヴィンが答えると、ミラは顎に手を当てて20年前か…と思考を巡らせた。エレンピオスの軍勢に断界殻の一部を破られたときのことらしい。

そんなことが?とジュードが問う。ローエンはクルスニクの槍もなくどうやって断界殻を破ったのか疑問に思ったらしい。


「クルスニクの槍のオリジナルを、エレンピオス軍が開発したんだ」


ミラですら知らなかった事情を答えたアルヴィン。靴を鳴らして歩きだしたアルヴィンに、みな着いて行く。知っているのではなく、聞いた話だと言うアルヴィン。

今あるクルスニクの槍は、オリジナルを真似して作ったものらしい。真似して、とはいえあんな物を作るなんて。そんな技術が、あるなんて。


「精霊が欲しかったから?」
「…違うと思う」


アンの頭をポン、と叩いたアルヴィンは言う。「エレンピオスは黒匣に支えられて発達された世界だ」と。「黒匣と精霊は文明の要(かなめ)だ」と。

精霊を殺すならやめるべきだと言ったエリーゼ。その通りの意見。そう、やめるべきだ、黒匣は。…でも、


「黒匣がなけりゃ、なにも出来ないんだよ、俺達は」


ぴたり、足を止めたアルヴィンは「俺達に霊力野とやらはないんだよ」と言ってのけた。「だから精霊術は使えない」のだと。だから、黒匣を使っていたのだと。


「…私達には霊力野があるから、黒匣は必要ないけど、」
「霊力野がないから、黒匣を使う、」

「……複雑ね、」



霊力野、黒匣



(どうしようもない、)



20121120

進まない…!




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