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命令のままに



―…朝。

眠れずに迎えたからか、頭が重い。プレザが起きて、いまだ眠っているアグリアを揺すって起こす。寝起きの悪いアグリアは悪態をついたが、プレザが言えば、アグリアはベッドから下りて支度を始めた。


「アミュレインはアグリアに甘すぎよ」
「そう?普通じゃない?」
「…はぁ、」


言われた時間まであと少し。支度が済んだアミュレインはベッドに腰掛ける。するとプレザはアミュレインの前に立ち、見下ろした。


「なに?プレザ」
「…昨日、アルと一緒だったのね」
「え、」
「香水の匂い」


女の勘は怖いと思った瞬間。プレザを見上げると、彼女は泣きそうな顔をしていた。まだ、想っているのね、アルヴィンを。


「大丈夫よ、何もないわ」
「…好きなんでしょう?」
「違うよ」


「私のこと気にしてるんでしょう。もういいのよ、過去のことだもの」


目を伏せたプレザに困惑する。好き?私が、アルヴィンを?…有り得ない、違う。そんなはずない。


「貴女は、自分の恋愛に疎いから」
「そんなことない、私は」
「貴女がアルを好きなのは直ぐわかったわ。ずっと、見てきたんだもの」


貴女と、長く一緒にいたんだから。くすりと笑ったプレザに、なんて言えばいいのかわからなくて。ただ目を反らすことしかできなかった。


「…私、貴女には幸せになってもらいたいって思ってるのよ」
「今でも充分幸せよ?」
「アルと、貴女が恋人になるなら…私は祝福するわ」


無理して笑うプレザに、なにも言えなくなった。ありがとうと言えばいい?けど私は私の気持ちがわからない。人に言われて、っていうのもあるけど…私は本当に、アルヴィンが好きなのだろうか。…どこを?何故アルヴィンなの?

わからない。
わからないことだらけで、更には寝ていないから頭が痛い。


身支度を終えたアグリアがきょとんとした顔で私達を見ていた。そろそろ時間だ、と教会の外に出ればウィンガルが先にそこにいて、遅いと一言。


「女は時間がかかるのよ」


ふふ、と笑ってプレザが言えば眉を寄せたウィンガルが"まぁいい"と言う。ガイアスはもうすぐ来るらしい。


「いよいよね」
「楽しみだなァ!」
「アグリア、遊びじゃないのよ?」
「…ネェちゃんと一緒に戦えるから楽しみなんだよ、バーカ!」


ふい、と顔をそらしたアグリア。プレザと顔を見合わせてクスクスと笑う。やっぱり、アグリアは可愛いから甘くなってしまう。


「…貴女の気持ちがわかったわ」
「甘くなるでしょ?」
「そうね、」


話していると、ガイアスがこちらに向かって歩いてくる。さぁ、出発だ。


「アミュレイン」
「はい、ガイアス様」

「お前は此処で待機していろ」

「…え、?」


「奴らに道を教え次第、早急に合流せよ、命令だ」


「……了解、しました」


ざくざくと雪を踏む音が段々と遠ざかる。置いていかれた、ただそのことに私の気持ちは負に変わる。

一緒に戦えると思っていたのに、戻れたはずなのに。

ただ伝えるだけじゃない、伝えたら彼らを無視して進めばいい。そう、そうよ。
















「あ…アン!」

「来たわね、」



命令のままに



(ガイアスから、離れない)




20120330

かなりの久々更新。
なんとなく出来上がっていたもののアミュの心情とか、いろいろ考えていたら随分と経っていました。

申し訳ありません。


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