TOX | ナノ

彼は、叫んだ





「何処に行っていた?」
「リィ、ン…あ、えっと」
「あの男と、何をしていた」


リィン…ウィンガルの言葉で、あぁ見られていたのかと悟る。ごまかしても無駄だ。彼はきっと怒っている。何に?と聞かれたら答えられないが、眉を寄せ、いつもよりも低い声で問われれば、機嫌が悪いなんてすぐにわかる。


「…見てたならわかるでしょ?」


怖い、とかそういうんじゃなくて。知られたことに若干ながら焦りと、何を言われるんだろうという思い。私の恋愛云々を彼が言うことはないと思うし、ウィンガルにだってそういった経験がないわけではないだろう。


「…いつからだ」
「なにが、?」
「恋人になったのはいつだ」

「恋…び、と?」


違う、私とアルヴィンはそんな関係じゃない。互いにそんな風に見ていないはずだ。彼はただ、性欲の処理に私を利用しているだけで。私は、私、は。


「…ぁ…っ」
「、アミュレイン?」
「なんでも、ない気にしないで」


私は、何故。何故いま泣きたくなっているのだろう。彼が私を何とも思っていないなんて分かっていたことじゃない。なに、なにをショック受けているの。ばか、馬鹿みたい。


「彼は、私のこと何とも思ってないわ。もちろん、私も」


納得してくれたかはわからないけれど、そうかとただ一言言ったウィンガルは背を向けて教会の、あてられた部屋に入っていった。

















「…アン、?」
「…こんばんは、ジュード」


私の名前はアミュレインだからね、と言うと"僕は貴女をアンとしか呼ぶ気はない"ときっぱり言われた。決めたら絶対に曲げないマクスウェル一行は皆、強情っ張りだと思う。


「アンって呼んだら返事しない」
「大人げないよ、アン」
「…はぁ、」


「…話して、くれないと思ってた」
「…なんで?」
「あの時のアンは冷たくて、見たことがないくらい冷たい目で、怖くて、」

「ふふ、そりゃ敵ですから」
「今、どうして笑ってくれるの?」
「…君の本質は嫌いじゃないの
―…ただ」
「ただ、?」


「ガイアス様の邪魔するなら、私は君でも容赦しない」


恐ろしい程、アミュレインは綺麗に笑った。アンのときにも、そしてアミュレインとしての彼女のときも、見たことがないくらいに、見惚れてしまうほどの綺麗な笑み。その笑みにジュードはゾクリと鳥肌が立ち、どうしたらいいのかと目を泳がせた。


「私には、ガイアスが全てなの」
「…ガイアスに尽くすことは、アンの意志?」
「もちろん。ガイアスの築く未来を、私は望んでいるの」


「…阻止するって、言ったら?」
「私の命にかえてでも、君達を排除するわ」


アミュレインは、にっこりと笑った。彼女の決意に、ジュードは何も言えず俯く。彼は、彼女がまた戻ってきてくれるのではないか、そう思っていたのだ。一緒にいた時間は短いけれど、自分達の思いを分かってくれる、とジュードは願っていた。


「まずは明日、ジランドを懲らしめることに集中しなさい」
「アンは、来ないの?」
「私は、君達の仲間じゃない」
「でも、僕達は」


「明日は早いから、もう寝るわ」
「っ、アン!」




彼は、叫んだ



(今でも仲間、だなんて)



20120310


あれ、今回は普通に本編にするとか言ってたのにな!

そして、22時にはあげるとか言ってたのに過ぎてしまった。本当に申し訳ないです。




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