この時間だからか、外はひんやりと寒くて。ジャケットを着てるアルヴィンと、見るからに寒い格好のアミュレイン。ぶるり、震えたアミュレインにちらりと視線を向けて徐にジャケットを脱ぐと"さむっ"と両手をクロスさせて腕を摩るアミュレインの肩にジャケットをかけてやった。
「え、アルヴィン…?」
「着てろよ、寒いだろ」
「いいよ、平気」
「いいから。着てろって」
そこら辺ぶらつくか、と少し先を歩き出したアルヴィン。アミュレインは、頬を赤く染めて、ただアルヴィンを見ていた。
(なに、なんなの?心臓うるさい)
どくん、どくんと早い鼓動に胸を押さえる。心臓が、痛い。
「アン?」
「っ、いまいく」
振り向いたアルヴィンに走り寄る。いま、絶対に顔が赤い。夜の暗さが隠してくれればいいと願い、アルヴィンの横まで歩いた。
月に照らされて、雪はきらきらと輝き、白い息もなんだか少し幻想的だ。
「んで、どうしたわけ?」
こんな時間に、大事な用か?と問われて。アミュレインはアルヴィンのシャツを掴み、俯いた。
「本当に、」
「…アン?」
「本当に、亡くなったの?」
「…母さんのことか」
先程よりも低くなった声に、シャツを掴む手に力が篭る。それに気付いたアルヴィンはアミュレインの頭を撫で、怒ってないからと言う。顔を上げたアミュレインは、瞳にうっすらと涙を浮かべていた。
「なんでおたくが泣くんだよ」
「レティシャさんは、私を可愛がってくれたの。娘がいたらこんな感じかしらって」
"正気じゃないときもよ"と言うと、アルヴィンは少し驚いているようだった。
「母さんを見てくれてたたんだよな」
「私がアルクノアに潜入してたときはね」
親を知らなかった私はレティシャさんが大好きだった。本当に、大好きだったのだ。
「泣くなって」
「だっ、て!」
止まらないのだ、止めたくても。後から後から溢れてくるのだ、苦しいほどに。
「ごめん、ごめんねアルヴィン」
「…お前、」
「泣きたいのは、アルヴィンなのに」
私が泣いたら、彼は泣けないままだろう。ごめん、と謝ると驚いた顔をして、見たことがないくらいに優しく、優しく笑った。
「…母さんの為に泣いてくれてありがとな、アン」
「っ、」
アルヴィンの瞳が、潤んでいた。泣きそうに…いや、泣くのはおかしなことじゃない。一人が嫌いな裏切り者は、頼ったり、縋ったりなんてしないし、仕方を知らない。
「泣いていいよ」
「ば、か。泣かねぇって」
「うぅん、泣いて。
私が…一緒にいるから」
ね?と笑みを浮かべて言うと、アルヴィンはアミュレインを痛いくらいきつく抱きしめた。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、苦しいとは思ったが、なにも言おうとはしなかった。
「母さん…、」
子供なのに、醜い世界を見ていたと聞く。母親は幼い頃から床に伏せていて、甘えることなんてできなかったんだと思う。
それから、数分の間抱きしめられていた。ゆっくりと離れたアルヴィンは、悪いと謝ってきたけれど私は気にしていなくて。寧ろ、その時間がとても心地好かった。
「ねぇ、アルヴィン」
「どうした?」
「今度、ピーチパイ作ってあげるわ」
「…なんだよ、突然」
レティシャさんがいつも言っていた。レティシャさんのの大事な宝物は、泣き虫な男の子で、優しくて、ピーチパイが大好きな甘えん坊。名をアルフレド、というと。
「…アルフレド、いい名前じゃない」
「知ってたのか」
「レティシャさんが言ってたのよ」
まだ緩く抱きしめられたままだったアミュレインはそのままくすりと笑った。
「アミュレイン」
「な、に?」
いつもより、艶のある声で耳元で囁かれて思わず顔を上げると、ぱちり、目が合った。
やばい、心臓が、!
そんなことを思っているなんてアルヴィンは知らない。ゆっくりと、近付いてくる顔に、顔が赤く染まっていくのを感じた。
「…真っ赤だな」
「ほっといて、」
ふ、と笑うアルヴィンに悪態つくと、こつんと額が合わさって、鼻が触れ合う。近い、すごく。
どくんどくんと心臓は早鐘を打って、焦点は合っていないけれど、アルヴィンも私も互いを見ていて。
恥ずかしくて耐えられなくなったアミュレインは、思わず目を閉じた。
ちゅ、というリップ音がやけに耳に留まり、緊張と羞恥に逃げてしまいたくなった。けれど、それをアルヴィンは許すはずもなく、後頭部にしっかりとアルヴィンの手が添えられて、啄むようなキスを数回されて。
次第に深くなるキスにアミュレインはもう、今キスしている男のことしか、考えられなくなっていた。
キスの魔力。
(だれかおしえて)
20120123
長すぎました。
かなり長くなりました、
打ちながらレティシャさんのことになり…!
ですがこの回の目的、キスの描写をいれることができて嬉しかったりしてます。笑
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