TOX | ナノ

私は記憶喪失

どうしたものかと、目の前の敵を見ていた。


「うーん」


目の前にはランドーゲコゲコとスカンキー、ランドーゴブリンがウジャウジャと私を囲んでいた。別に倒せないわけじゃないしどうにかすることは可能だ。けれど、遠くに、そう少し遠くに。なんか人が何人かいるのが見えたのだ。そろそろ此処を通る頃だって連絡きてたけど、本当に通るなんて。


「ま、適当にヤられちゃえばいいよね」


使い慣れていない剣を握りしめて振り回してみる。別に攻撃されたって死にゃしないだろう。ランドーゲコゲコが気持ち悪いヌメヌメしてそうで面倒だ。ちらりと向かってくる人を見ながら、飛び掛かってくる魔物達の攻撃を態と、まともにくらってみせた。

ゆっくりと倒れていく身体。ああ…なんだろう痛いなー、もう嫌だなあ。視界が歪む。だんだんと意識が遠退いてきたとき、視界に茶色と、金と黒が私の前を横切った。意識が闇に落ちる瞬間、身体が暖かいものにつつまれた。



















「…ん、」
「あ…、
みんな、気づいたよ!」


目が覚めたとき、周りはもう真っ暗だった。身体が暖かいのは、近くで火を興していたからであろう。まだ全員が起きているようで数人の気配がこちらに向かってきた。


「大丈夫…ですか?」
「あんな数の魔物と対峙って…おたく、勇者だねぇ」

「もうアルヴィン」

「…助けていただいたんですね、私」


小さい少女と、あの男、そして黒髪の少年が順に話す。話しを聞けば、どうやら少女A…エリーゼと少女Bレイアが治癒術をかけてくれたようだ。こんな小さいのに精霊術って…ていうか、この子ジャオがハ・ミルで見ていた子だ。なんとまぁ監視対象が3人もいるなんて、偶然なのか図られたのか分からないけど…この任務、結構荷が重い。


「ありがとうございました」
「いや、気にすることはない
困っている者を助けるのは、マクスウェルとして当然のことだ」


自称マクスウェルの女。この女が、精霊の主だという。この女を監視しクルスニクの槍を奪う、か。あとはアルヴィンの監視だ。エリーゼのことも一応報告して…マクスウェルの排除、又は連行。ていうか誰かもわからない人間にマクスウェルというこの女…普通なら引かれると思うんだけど。


あの人が望むことだ、全て成功させなければ。私にしか、できないのだから。


「ところで、あのような所で何をしていた」
「あんなに魔物に囲まれるなんて…」
「よく…わからなくて」
「…わからない…ですか?」

「気付いたら彼処にいて、剣を握ってて。痛みに意識がなくなって、目が覚めたら今」

「もしかして…記憶喪失、とか?」
「…そう、なのかな?」
「君、名前は?」

「…アン」


プレザ達からの愛称である名を言う。本名等教える必要などないわけだし。"じゃあアン"と少年…ジュードがこちらをみて言う。何かと彼を見ていると不安げな、というか心配の色を浮かべた目で私をみていた。


「名前以外は、わからない?」
「…うん」

「行く宛は?」
「…ないよ、」

「…ミラ」
「なんだ?ジュード」
「アンも、連れていってあげない?」
「そうです、ミラ。アンは記憶がなくて、一人じゃ寂しい…です」
「そうだよー!お願いーっ」
「うん、治ったって言っても、怪我も不安だし」

エリーゼの腕からするりと抜けて紫色の人形が喋り出した。ジュード、エリーゼ、レイア、そして人形の言葉に"ふむ"と顎に手を持っていき考えている様子のミラを横目に、分厚い眼鏡のレンズ越しに、アルヴィンを見た。彼は、ちょうど手紙を書いているようで…きっと、アルクノアにだろうと悟った。


「…よし、アン」
「はい、」
「一緒に行こう
少し危険な旅になるのだが」
「っ、いいの?」

「あぁ。君にも戦ってもらうことになるが…」
「構わないわ、ありがとう!」


喜んだ"そぶり"を見せて、ミラに抱き着いた。きょとんとした様子のミラとホッとした顔をジュード、人形を抱きしめてその場でくるくると回るエリーゼ。にっこりと笑っているレイアに、これまた優しげな瞳を向けて笑っている髭の…ローエン。


どうやら、簡単に潜入完了できたようだ。



私は記憶喪失



(愛しのガイアス様へー)
(潜入完了しました!)



20111008

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ラコルム街道のところの話しです。

ひぐら


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