TOX | ナノ

初任務、失敗

リィンは強い。
そして、どこか儚げだった。


「リィン、リィン!」
「…五月蝿い」
「わ、反応してくれた!」
「!!」


リィン、後のウィンガルはわかりやすい男だった。アーストが19になり、リィンは15、アミュレインが10になった頃。後の四象刃と呼ばれる精鋭部隊の4人のうち、2人がもうアーストに仕えていた。

リィン、オルテガに稽古を頼みの込み、快く了承してくれたキタル族族長のオルテガと、渋々了承したアーストに言われて嫌々ながらもリィンが特訓していた。


「っりゃあ!!」
「くっ、昨晩よりは、上達したな」
「、ほんと!?」
「…いや、俺の思い過ごしだったようだ」


いまだにリィンの笑顔を見たことはない。いつも難しい顔をして、私を見たらあからさまに不機嫌な態度をとる。
文句の一つも言ってやりたかったけど、リィンと仲良くなりたいのだ。笑顔が、みたいのだ。


「え、ほんと?アースト」
「あぁ…腕を上げたと聞いているからな」
「やったぁ!
リィン、頑張ろうね!」


最近、近くの森で野党やら魔物やらが頻繁に現れて被害が拡がりつつあると報告があった。
オルテガの進言で、私は初めて任務を与えられた。一緒に行くのは、リィンだ。少しの不安、嬉しさ、感動。アーストが私を信用してくれた、それだけが嬉しかったのだ。

「せいぜい、足を引っ張らないことだな」
「むぅ…頑張るもん」


いつも通りの会話が終わり、アーストに近付いてありがとう、と言うと難しい顔をしたアーストに頭を撫でられた。どうしたの?と首を傾げれば、静かに声が、響く。


「本来ならば、お前に行かせたくはない」
「オルテガが言ってくれたんでしょう?」


聞けば、いや…と首を振られて。ぱちぱちと瞬きしながら考える。じゃあ誰?いや、一人しかいないじゃないか。


「リィン、?」
「今日は少し危なかったと聞いている」
「私が?」
「いや、奴がだ」


今日も、リィンにはアッサリと負けて悔しい思いをしていた。だからアーストの言葉があまり信じられなかった。リィンが、危なかったって言ったの?本当に?

もし本当ならば嬉しい。期待に応えられるように精一杯頑張らなきゃ!















「…行ってくる」
「いってきます、」

「気をつけてな」
「無理だけはするな」


アースト、オルテガに見送られて、報告された森に向かった。道中会話はなかったけれど、リィンは私に合わせてゆっくりと歩いてくれた。それが、すごく嬉しかった。

「…ここ?」
「あぁ、……くるぞ」


リィンの声と共に聞こえたガサという草の音。私でもわかる程の殺気が向けられて、ぶるりと震えた。

これが殺気。これが、戦い。


ガサガサと飛び出してきたのは10人近い男達。私達がまだ若いことから馬鹿にした目で見下ろされて、ふつふつと湧きだつ怒りが爆発しそうだった。


「むぅ…私、怒ったからね!」
「特攻はするなよ」
「わかってる!

…焼き尽くせェっ!
エンシェントノヴァ!!!」


アミュレインの声が響くと、真っ赤な業火がアミュレインの周りを囲い、盗賊に降り懸かる。ドォン、という轟音と盗賊達の絶叫。10人近くいた盗賊はもう2人しか残っていなかった。


「火を使うな!」
「ごめ…!えっと、えっと…
流水きたれ!スプラッシュ!」


さばぁ、と激しい水が残りの盗賊を打ち付けた。盗賊は息もできなかったのだろう苦しそうにもがき、絶命した。


「終わったか」
「うん!」
「及第点だ」


"きゅうだい…?"とぽつり呟いてリィンを見た。彼の背後できらりと光る、何か。


「っ、リィン!」


どん、とリィンを突き飛ばす。なにを…!と声を上げるも、リィンは直ぐに目を見開いた。


「ぐっ、龍神、崩襲撃!」


己の腹部に突き刺さり、腹を抜け切っ先が目に入った。歯を食いしばって、己を刺した盗賊に剣技をくらわせて絶命させた。
息があがる。痛い、痛い痛い痛い痛い痛い!!!
焼けるように痛くて、震えが止まらなくなってきた。ガチガチと無意識に歯を鳴らし、最後の最後で…!と悔しそうにアミュレインは声を上げた。



初任務、失敗



(アミュレイン、お前…!)
(あは、リィン、大じょ、ぶ?)



20111202


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