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智将と仲良く

「大丈夫っ?いま、治癒するからね!」
「な、!」


ロンダウ族はア・ジュールを代表する二大部族の一つだとアーストや他の人は言う。

そのロンダウ族の族長、リィン・ロンダウは小さき智将と呼ばれていた。
彼は13歳で族長となり、ずば抜けた頭の良さ故に呼ばれていたようだ。

部族間の衝突が多いア・ジュールを、アーストは少しずつだが従えていた。アウトウェイ族は、ア・ジュールでは低い位置にいる部族らしいが、アーストは強い。
彼の強さに平伏し、ついていくと決めた族長は多かった。


リィン・ロンダウはアーストに破れ、傷だらけだった。アーストも少しの切り傷はあれど、彼に比べれば怪我などない、と言ってもいいほど。

一緒に行きたい、と泣きついたアミュレインを仕方なく同行させたアーストは、絶対に近寄るなと約束させた。だが、リィンに近付き手を翳したアミュレインの掌が淡く光り、その光りがやむとリィンの傷は全て塞がり、体力も完全ではないが回復した。


「もう大丈夫だと思うけど、痛いところな…ひゃうぅっ!」

「動くな、アースト・アウトウェイ」


"動けばこの小娘の首を跳ねる"首筋に宛がわれた剣に、アミュレインはひゅ、と喉を鳴らした。恐怖で声は出ない。けれど、なぜだか"大丈夫だ"と思っている自分もいた。

「大丈夫だよ、アースト」


"この人は絶対にそんなことしない"何故か確信があった。会ったばかりで、今まさに自分を斬り殺さんとする男だけれど、何故か。


「そうだな、お前はそんな卑怯なことはせぬ」
「なんだと」

「リィン・ロンダウ
この国を、我が物にする為、お前の頭脳を俺に貸せ」
「…ア・ジュールを、下等民族であるアウトウェイ族がか?」

「…族は捨てる。
これからは、族など関係ない。俺が王となり、世界を統合する」


そんな夢物語を、と人は笑うだろうか。けれど、アーストなら成し遂げることができると思うのだ。

暫しの睨み合い。
殺気を放っていたリィンは剣を下ろすとアーストの前に行き、膝をついた。


「アースト・アウトウェイ
不本意だが、お前なら可能やもしれんな」


頭を下げたリィンに続き、ロンダウ族の皆が頭を下げた。また一歩、前進したのだ。アーストが、民を統べていく未来が、着実に、現実味を帯びていく。



「リィン、私アミュレイン!
よろしくね!」
「貴様などと馴れ合うつもりはない」


冷たくあしらわれても、アミュレインはめげなかった。笑わせようと身体を張ったり、仕事を手伝ってみたり、奇襲だぁあ!と木の棒を持ってリィンの背後から襲ってみたり。
けれど彼は一向に笑ってくれず、名前すら呼んでくれなかった。



智将と仲良く



(アーストぉ…)
(どうした?)
(リィンと仲良くなりたい)



20111130

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