TOX | ナノ

仲間の死に涙

漆黒が、風のように兵士を切り付けた。


「ウィンガル、平気なの!?」
「案ずるな、俺は倒れない」


ウィンガルと背を合わせる。治癒した甲斐があるってものだ。"いくぞ"とウィンガルの声に"了解!"と同時に駆け出した。


「私もいるわよ、アミュレイン」
「待ってたわよ、プレザ!」


水系の精霊術を兵士に放ち、媒体となる本をぱたんと閉じた。髪をさらりと払い、口元を緩ませたプレザの肩を叩き、次なる敵に向かった。


周りは、黒匣の兵器で荒れ地と化していた。
敵か味方かわからない、沢山の兵士が命を落としている。この状況は胸が苦しくなった。

そういえば、近くにジャオがいない。きょろきょろと見回すと、エリーゼと共に、彼はいた。

次の瞬間、彼はエリーゼを庇い黒匣の攻撃を受けた。あのままだと、確実に命の危険がある。


「ジャオ!!」
「…アミュレイン、か」
「いま、回復を…!」


ジャオの傷に手を翳そうとするも、首を振り手を避けられた。なんで、なんでジャオ、治癒しないと、ジャオは!


「わしはいい
娘っ子を治療してくれ」
「っ、ジャオ、あんた!」


目を細めたジャオの優しい顔は、昔、見たことがあった。私が初めてジャオに会ったとき、彼はとても優しくて、身体だけじゃなく心も大きかった。
今のジャオの顔は、全てを、諦めたような。けれど、瞳の奥には消えることのない炎がたぎっていた。

「アミュレイン、お前はお前らしく、生きるんだぞ」
「な、に」
「死にいく老いぼれの言葉、肝に命じろ」

「ジャオ、まだ間に合うよ!」
「…娘っ子を守って、陛下やお前を守って死ねるのなら、本望だ」
「馬鹿、だよ…ジャオ!」

「幸せになれ、娘っ子、アミュレイン」

「…ジャオ…さん」
「……っ、」

「わしが言うのは間違いかもしれんが…二人を頼んだぞ」


泣くな、泣くな。
ジャオは覚悟をしたんだ。その意思を尊重しなければ。私の幸せを願ってくれたジャオに、精一杯の笑顔を。


「ありがと、ジャオ」


ジャオに背を向ける。ちょうど、ウィンガルやプレザがガイアス様の近くに着地したのが見えて、後ろからの、ジュードに呼びとめられる声を無視し、ガイアス様の隣に移動した。















「長年、世話になったな」
「皆を、頼みます」


頭から血を流すジャオに背を向けガイアスは歩き出した。ウィンガル、プレザが順に頭を下げ、ガイアスの後をついていく。


「……、」
「アミュレイン?」

「、今行く!」


ジャオと目が合い、にっこりと、互いに笑みを浮かべた。

ありがとうとお疲れ様、そしてさよならとおやすみなさい。心の中呟いた。


無意識に頬を流れる涙を、拭う。ありがとう、ありがとう。大好きで大事だった私の仲間。

ジャオは、己に背を向けてガイアス達を追い走り出したアンの背を見送った。

















「最期の足掻きじゃ!」


黒匣が撃たれ、爆発する。ジャオは紫の気を纏い、叫んだ。


「霊力野、全開!」


うおおぉ!という声をあげて、武器を振り回すと地が割れ、兵が吹き飛んだ。

幾百もの兵がいたその場は、もう彼しか立っていない。

武器を地に落としたジャオに、空駆ける船が攻撃した。

きらりと、光る。


四象刃が一人、ジャオの最期だった。



仲間のに涙



(お疲れ様、ジャオ)
(そして、おやすみなさい)



20111126

なんとなく、打ちながら泣きそうになってました←

ジャオは、最初から悪い人じゃない気がしてたから。

ジャオはヒロインにとって父親のような暖かい存在だった設定です。


そして、結局ジャオを救済せずに終わりました。
多分この連載が終わったらトリップ夢連載を始める予定なので、その時は救済したいかなぁ←



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