四象刃と対面する前。
アンが秘奥義を放つよりも少し前の時。
そこに響くのは、人々の争う声と、肉を絶つ耳を塞ぎたくなるような音。
兵士らを20人程切り捨てたところ。
「はぁぁあっ!」
「、ぎゃああぁっ」
皆、肩で息を仕出す。まだ若い3人はこんなにも人を殺すなんて、考えたことなどなかっただろう。戸惑いながらも、殺らなければ自分が殺られてしまうこの戦場で、迷ってなどいられなかった。
「ちぃ、うじゃうじゃ沸いて来やがって…あと少しだってのに…!」
「大丈夫、アルヴィン君」
何人倒したかわからなくなってきた頃、眉を寄せ言い放つアルヴィンに心配そうに声をかけたレイア。戦闘中にも関わらずベラベラと話す彼らに驚いたが、なんだかそれにも慣れた頃だ。
「大丈夫か、アン」
「愚問、!」
今回も共鳴しているアルヴィンの心配する声。見くびらないで欲しい。私を、一体だれだと思っているのだ
「きゃっ…!」
「…エリー、」
アンのすぐ近くでエリーゼがラ・シュガル兵によって地に伏せていた。振りかざされる剣に、ぎゅっと目を瞑り、ティポを抱きしめたエリーゼ。
「死ねぇぇえ!!!」
パァ―…ン
がしゃ、という鎧の音とともに、エリーゼを狙った兵士は地に倒れた。
「アン、ありがとう…です」
「…え、あ、うん」
無意識に、この姿では使うことのない銃で兵士を撃っていた。別に、助けなくたって良かったのに…だ。
おかしい、
自分が、自分じゃなくなるような感覚。後ろに感じる殺気には気付いた。けれど、エリーゼを助けたこと…それはアンにとって訳のわからない、不安要素だった。
――…いいや、考えるのはよそう。私は、
「ガイアス様に、この命を」
"捧げているのよ"
ぽつりと呟くと、アンに向かって走ってきた兵士を見る。殺せるのなら、殺せばいい。
「危ない、アン!」
「え、……っ!」
どん、と強く突き飛ばされて、アンは尻餅をついた。
「レイア!!!」
「っ!!」
先程までアンがいたところ。そこには、レイアがいた。アンを突き飛ばしたレイアが、脇腹から血を流し、歯をくいしばり棍棒を杖のようにし、立っていた。
「ミラ、」
「あぁ、」
『気刃連旋襲!!』
ジュード、ミラの共鳴術技により、辺りには竜巻、衝撃波の凄まじい音。2人により、兵士は絶命した。
「―…ナース、」
エリーゼの声が響く。ふわりとレイアを包む光。それが消えると傷が塞がったのだろう、痛みに顔を歪めている様子はなかった。
「アン、大丈夫だった?」
「レイ、ア」
顔色が悪いレイアを見る。優しげな笑みを浮かべる彼女を見て、胸が痛んだ。
やめて、やめてよ。馬鹿じゃないの、やめてよ。そんな顔で笑わないで、私に笑いかけないで、私を、助けるなんて、馬鹿、だよレイア。私は、貴女達を裏切るときが近いというのに。この思いは、決して、揺らがないというのに。
戸惑うココロ
(ごめん、ごめんね)
(私なんか守らなくていい)
20111102
prev / next