TOX | ナノ

秘密の契約。

二人きりで話すのは初めてのことかもしれない。


ベッドに腰掛け、私を見るアルヴィンから目を反らす。彼が聞きたいことはなんとなくわかるし、きっと彼の母親に会いにいったときには気付き始めていたのだろう。


「おたく…さっき城にいた?」
「城?…私はずっと寝ていたわ」


急に手が伸びてきて、彼は私の頬に触れると親指の腹で私の頬を撫でた。


「ここ、さっきまで傷なかっただろ」


ちく、と頬が痛かったのは切れていたからなのか。きっと、先程の戦闘でできた傷なのだろう。言い逃れはできなさそうだ、けれど全てをバラすわけにはいかない。まだ彼は、私達にとって利用価値のある人間だし、アルクノアにバラされたらたまったもんじゃないのだ。


「もう一度聞く。
―…おたくは、何者だ?」


真っ直ぐに射抜く視線。目が反らせなくて、どうしようもないと諦め、溜息をついた。いまだ頬に添えられた彼の手に触れて、見つめ返す。


「貴方が思っている通り、私はガイアス様の側近。さっき一緒に歩いてたアミュレイン・ラグレイスよ」


さほど驚かなかったのは、確信していたからだろう。"やっぱりな"と笑うアルヴィンの思考は読めない。裏切り者で、嘘ばかり、きっと言わないでと言ってもこの男はアルクノアに報告するだろう。けれど、そんなことをされてはガイアス様に叱られてしまう。それだけは避けたいのだ。

「…アルクノアに、報告するの?」
「まぁ、そういったことも俺の仕事なんでね」


お願い、と頼んだとしてもこの男は裏切る。それは分かっていることだ。どうする、どうすれば言われない?




「ねぇ、契約しましょ」
「契約?」
「貴方が望むことをするわ、だから」
「アルクノアには言わないってか」


"そう、駄目かしら"と首を傾けると、くすりと笑って、肩を押された。目の前にはアルヴィンの顔と、そして、天井。組み敷かれているということは、これから"そういった"事に及ぶのだろう。

バレないためだ。嫌いで、殺してしまいたい程の男でも。失敗するよりずっといい。―…少しずつ近付いてくる整った顔。ふわりと香るのは最近慣れてきた懐かしい香り。額が合わさり、鼻が触れ合う。


「こういう事なら契約してやるぜ?お嬢さん」
「構わないわ、好きにして」


契約、成立だな。と噛み付くように唇を貪る彼。平静を装う私の心臓は今までにないくらい五月蝿かった。



秘密の契約。



(思いの外、彼のキスは)
(優しくて、暖かかった)



20111010

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え、これ微裏ですかね

なんかいけない方向に向かっていく我が家のアル連載ww



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