この男の目は、嫌いだ。
陛下に頭を下げて、部屋から出る。こつこつ、と聞き慣れないヒールの音が響き、隣からはいまだ視線を向けられている。あぁもう、歩きにくいったらありゃしない。
「…なにか?」
「俺と会ったこと、ないか?」
「…新手のナンパかしら」
くすりと笑って"会ったことなんてないわ"と言うと、腕を引かれた。微かに香る香水。シャン・ドゥで懐かしく感じた香水の匂いを肺いっぱいに吸って、彼を見上げた。
「なぁに?」
「…いや、悪い」
"知り合いに似ていただけだ"と、彼の言う知り合いとは、きっとアンだろう。彼から離れて、城を出る。先にプレザとウィンガルがミラ達を追っているようなので、アルヴィンと別れて、屋根の上に上った。
「…あ、いた」
ウィンガルは姿変えてるし、プレザはそれに苦笑してるし。5対2は不利だ。そこまで飛んで、使いなれた銃を握る。屋根の上からジュードの足元を撃つと、驚愕の色を浮かべて、私のいる屋根の上を見上げる。
「アミュレインちゃん華麗に参上ーってね」
「……(遅い)」
「なにしてたの?」
「陛下といちゃこら?」
けらけらと笑って言えば、二人は溜息をついた。ミラ達を見ると、私を見ているのは分かっていたし、にっこりと笑み浮かべて、首を傾けた。
「やだ、怖い顔」
「お前は…」
「ガイアス様の側近、アミュレイン・ラグレイス。
悪いけど、お命頂戴するわ!」
地を蹴り、背にしょっていた愛刀をすらりと抜く。久しぶりの愛刀に顔を綻ばせながら、ミラに切り掛かった。がきん!と金属同士がぶつかり合う音。しっかりと受け止めたミラ、それを見て楽しそうに笑うアミュレイン。2人が離れると同時に戦闘が始まった。
「いくわよアミュレイン」
「任せて頂戴!」
「はぁ!」
「だりゃあ!」
「っ、ち」
「いったーい!!」
「切り刻め、ウィンドランス!」
「闇に消えよ、ブラックホール!」
「きゃあぁ!」
「っ、やばいかも」
「ツインバレット!」
「獅子穿孔!」
「っい…たいわね!」
――……は?
なに、今…私―。
戦いたくない、今私、そう思ったの?嘘よ、嘘だよ!私はガイアス様の為にコイツらを潰すんだ。ガイアス様が望むこと、私成し遂げなきゃならないんだよ!なんで、こんな奴らを―殺したくない、なんて。
「アミュレイン、今よ!」
「…うそよ」
「アミュレイン!」
目の前にはミラの剣。あぁ、切られるなと思ったときにはもう遅かった。こんな、こんな事を思った私はもう…もう、駄目よ。ガイアス様への裏切りだわ。殺して、いっそ一思いに。
剣が振り下ろされる直前、目の前には黒が現れ、黒に抱きしめられた。香るのはウィンガルの好きな香水で、ずるりと私を抱きしめた力が緩まると、彼は地面に崩れていった。
戦いたくない
(…なにしてるの、ねぇ)
20111010
当初の予定から変更してこんな感じに←
アルは建物の影から見ていまーす。
プレザもウィンガルも、アミュレインを大事に思っているからこそのウィンガルの行動です。
ミラ達と"戦いたくない"と思った時点で、彼女はガイアスを裏切ってしまったのだと考えて笑ってしまい、その時に丁度ミラが剣を向けていたーと。
相変わらず表現力がなくて泣きそうです
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