森次玲二。

24歳という若さにしてJUDA特務室室長。
ヴァーダントのファクターであり、勿論その腕はJUDAグループの中でも随一である。


冷静沈着、頭脳明晰、加えて容姿端麗。

非の打ちどころは一つもない。


私はそんな凄い方の部下であることをとても誇りに思っています。


今日も今日とて精一杯補佐をさせていただきます!





「室長。おはようございます。」

「お早う。」


ニコリともせず室長はご自分の席に着いた。

でも挨拶を返してくれるだけで嬉しいし光栄だ。



「室長!コーヒー淹れました。熱いのでお気をつけ下さい。」

「ありがとう。」



室長はやっぱり笑わない。

今は勤務中なので仕方ない。


勤務以外でも笑った顔を見たこはないけどそこは気にしちゃいけない。



「First Name。」

「はい!」

「この資料を10部ずつコピーを取ってくれ。」

「はい!」


室長からの頼まれ事はどんなことでも全力です。




「室長。そろそろお昼休みですよ。」


「………。」



室長は熱心にパソコンと向き合っている。

こうなると室長はご飯を食べることも忘れてしまうことも珍しくない。


私の声も聞こえいない様子。


恐らくあと一時間はこのままだろう。


その集中力は素晴らしいけどちゃんと栄養は摂ってほしい。





「室長。私、少し席を外させて頂きますね。」


「………。」


一応断りを入れてから私は部屋を後にした。


私は少し足早に廊下を通り過ぎた。






「室長。失礼します。」


30分後。

私は室長のいる部屋に戻って来た。

部屋に入る前に一応ノックをしたけど返事はない。


まだパソコンと睨めっこしてるのかな?



「…室長?」


そっとドアを開くと室長は椅子に深く腰をかけて眠っていた。


「(うわ〜…。)」


眼鏡を外し、静かに目を伏せる室長の姿はとても穏やかで…。



「(…すっごく、綺麗。)」


思わず室長の足元にしゃがみ込んで顔を覗き込んでしまった。


室長の補佐を始めて3年ほどになるが寝顔を見たのは初めてだ。


想像していたよりとても綺麗な寝顔に見入ってしまった。



「(最近出動続きだったもんね。)」




加藤機関の活動が活発化してから特務室の仕事も激化している。

加えて室長はファクターとして出撃することもあり、デスクワークとの兼任は大変じゃないはずがない。



「(食堂閉まっちゃうからお弁当作ってきたけど…疲れてるなら起こさない方がいいのかな?)」


まだ仕事は残っているから本来なら声をかけるべきだが、いつも真面目に執務をこなしている室長を思うとなかなか声をかける気にはなれなかった。



「(少しぐらいなら大丈夫だよね。)」


そう思い私は立ち上がるとお弁当を室長のデスクに置き、自分のデスクに戻った。



「…あ!」


椅子に座ったと同時に立ちあがり、私は再度室長の元に駆け寄る。


日差しが当たっているとはいえ、室長が風邪をひいてしまったら大変だ。


私は自分の着ているスーツのジャケットを脱ぎ、室長に掛けようとした。


「わっ!!」



室長にスーツを掛けようとした瞬間、私は他の力に引っ張られて室長にもたれかかってしまった。











「何をしようとしていた?」


「室長!」



私を引っ張ったのはやはり室長だった。

驚き距離を取ろうとしたが手首と腰に回された腕によりそれは叶わなかった。



「え!?いつから起きてらしたんですか!?」


「今さっきだ。」


「(それってどこから?)」


頭上にクエスチョンマークを飛ばしている私を無視して室長は問いかけを続けた。


「何故起こさなかった。」


「え、あ…あの。ここのところ出動続きで疲れてらっしゃると思って…。
 それに…気持ち良さそうに寝ていらっしゃったので…起こすのは、その……。」


私が口ごもっていると室長は私の手首をつかんでいるのとは逆の手で私の頬に移し、包み込むように触れてきた。


「…室長?」


「起こすのは?」


顔を室長の方に向けられ、先を促された。

真っ直ぐに私を見つめてくる黒い瞳が宝石のように綺麗で眩暈を覚えた。



「お、起こすのは……なんだか、申し訳…なくて…」


眩暈に加えて脈拍も上がってきた。

室長に触れられている箇所が熱くて仕方がない。



「First Name。」


「は、い。」


「何故きみは私のことを名前で呼ばないんだ?」


「……え?」



先ほどとは打って変わった質問の内容に私は目を丸くした。


「特務室の人間は皆私のことを苗字で呼ぶ。
 室長と肩書で呼ぶのはFirst Nameだけだ。」



確かに私より年下の山下くんや早瀬くんですら室長とは呼ばない。


「……名前で呼ぶのは…なんだか、恐れ多くて…。」


これは事実である。


24歳という若さにしてJUDA特務室室長。
ヴァーダントのファクターであり、勿論その腕はJUDAグループの中でも随一。


冷静沈着、頭脳明晰、加えて容姿端麗。

非の打ちどころがない彼の部下であるだけで光栄だというのにどうしてファクターでもないただの補佐官である私が彼のことを名前で呼べようか。




「名前で呼んではくれないのか?」


そう問いかけた室長の目はどこか憂いを含んでいて、私は必至に弁明した。


「そういうわけではありません!ただ、私は室長のことをとても尊敬していて、それで…!!」


「ならこれからは名前で読んでくれるか?」


「で、でも、それは…。」


「練習だ。森次、と言ってみろ。」



室長は私が逃げられないようにしっかりと手首を握ったま、頬に宛てていた手を唇へと移動させた。


いくらでも顔を背けられるはずなのに、漆黒の瞳に捉われたまま、逸らせない。






























「も、森、次…さん。」



初めて口に出した彼の名前。

想像以上に恥ずかしくて、言葉にした途端身体中の血流が沸騰したように熱くなった。



室長はというととても満足げに口元を緩めて笑っていた。





「〜〜〜ご、ご飯はちゃんと食べて下さいね!!」


脈絡なくそれだけ言い捨てると私は部屋から逃げだした。


室長の笑顔が見れたのは嬉しいけど、今はそれどころではなかった。




「(は、恥ずかしい!!)」


廊下を一気に駆け抜けてエレベーターに乗り込み、ドアが閉まると壁にズルズルと凭(モタ)れかかりながらその場に座り込んだ。



「(腰、抜けるかと思った…)」




よくよく考えたら凄いことだ。


引っ張られたからとはいえ、ほぼ抱き合ったような体制。

頬に手を添えられ、間近で見つめあっていたのだ。



「有り得ない…。」


頬に手を添え、熱を分散させようとするが火照りは冷めるどころか上昇するばかりだった。



今は勢いで逃げてしまったが私の仕事は室長の補佐。

嫌でも私は彼のいる部屋に戻らなければならない。



「どんな顔して戻ればいいのよ…。」


私はこんなに困り果てているのにきっと室長はさっきと同じように勝ち誇ったような笑みを浮かべて出迎えるのだろう。

そう思うととても室長がずるい人間に思えてきた。


だが…



「惚れた弱み、っていうのかな。」



とうの昔に自覚はしたいたが実際口に出すととても気恥しかった。


だがどんなに恥ずかしくても、悔しくても、彼の笑顔が見れるのが嬉しくて仕方がないのだ。





「…室長の馬鹿。」


立ち上がって再度私は室長の待つ部屋へと戻ることにした。

口元は先ほどの彼のように僅かに緩んでいた。










【純メロディアス】







***
お互いぞっこん。
「室長」って呼ばれる森次さんが書きたかっただけなのになぜかS気味になってまったorz
肩書フェチですみません。
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