「失礼しまーす。森次さ……」


ドアを開けたら、そこには見知らぬ少女が一人、
こちらをじっと見つめていました。





【愛玩動物】





社長に頼まれて森次さんに渡す様にと言われた書類を持ち、特務室へと訪れた。


そういうことをするために小川さんがいるんじゃないのか、って言ったら「まぁまぁいいじゃないの」の一言で一蹴された。

なんで俺がこんなことしなくちゃいけなんいだか…、と文句を垂れながらやってきた特務室。


当然そこにはいつも通りの無表情でパソコンに向かっている室長サマがいらっしゃると思ったのだが…


実際にそこにいたのは少女だった。



「え………ええ!?」



驚きを隠せず、思わず一旦廊下に出て部屋を確認してしまった。

外には確かに『特務室』と書かれたプレートが掲げられていた。


そして俺はもう一度部屋の中を見る。

そこにはやはり森次さんではなくて初めましてな少女がソファに腰をかけていた。




「え、な…え?」相変わらず事態を飲み来ない俺の口からは短い言葉しか出てこない。

すると少女は人差し指を口許にすっと立てた。



「静かにして、玲二寝てるから。」



声を張らず、少女は諭すように言った。



「玲二、って…え、森次さん?」



尋ねると少女は静かにこくりと頷き、自身の膝の辺りを指差した。

指差された場所はソファの背もたれの影になっていてここからは見えない。


そっと物音をたてないように部屋の中へと入り、覗きこむ。

するとそこには穏やかに眠る森次さんの姿があった。


少女の膝に頭を預け、かすかに寝息を立てている。


ジャケットやネクタイを脱ぎ、第二ボタンまで外し首元を緩めていた。

眼鏡も外しているため、心なしかいつもより幼く見えた。



「昨日徹夜してたから、仮眠。」

「…へ、へぇ。」



そうそう見ることのできない森次さんの寝顔。

思わずまじまじと見てしまった。


するとそれが気に食わなかったのか、少女は早瀬を軽く睨んだ。


「玲二に用があったんでしょ?起きたら私から伝えておくから、何?」

「あ、ああ…じゃあこれ、社長から預かった書類。目、通しておいてくれって。」

「分かった。ありがとう。」


書類を少女に渡す。

だが早瀬はまだその場から動かずにいた。



「…まだ何かあるの?」

「あ、いや…。」


用事は済んだ。

だが先程から早瀬の胸の内に引っかかる疑問。


改めの目の前の少女を見遣る。


よく見ると少女という程幼くなかった。
自分と同じくらいの年齢か、もしくは少し上くらいだろうか。

身にまとった簡素なワンピースが更に年齢を曖昧にした。



何も言わず部屋を出ていくこともできたのだが、それまで飲みんでいた言葉が思わず口をついて出てしまった。



「君、だれ?」



その質問に少女は数回目を瞬かせた。



「…なんで?」


何故そんなことを訊くのかわからない、と言った目だ。

まさか質問を質問を返されるとは思わず早瀬も返答に戸惑った。



「あ、いや…見ない顔だな〜って思って。一応俺も特務室の人間だし、知らない人がいるのはどうなのかな〜、と…。」



しどろもどろになりながら答える早瀬を見て、少女は妖艶な笑みを浮かべた。

それまでの印象とは一転、大人の表情にドキリと胸が鳴った。



「私は特務室のメンバーじゃないよ。」

「え、でもここ…。」

「特務室だよね。でも私は特務室の人間じゃない。今日は玲二に付いてきただけ。私は玲二の………うーん、なんていうのかな…」



暫く考え込んだ後に『そうだ』と、言って手をぽんと叩いた。



「飼い猫、かな。」

「飼い猫!?」



てっきり恋人だとかそのようなことを言うのかと思っていた早瀬にとって予想外の発言に思わず声が大きくなってしまった。


少女はまた睨むようにして小さく『しー!!』と言った。

そして未だ眠りについている森次をみてほっと胸を撫でおろしていた。



「ということで、玲二はまだまだ置きそうにないから出直してくれるかな、早瀬浩一くん。」

「あ…はい。」



静かに部屋を出ると早瀬はぽかんとしながら廊下を歩いた。突然特務室に現れた少女。
膝枕をしていた様子からして森次さんは相当気を許しているのだろう。

そして何より自分は森次の『飼い猫』だと称したその関係。


一体何が何のやら…。


突然のことに早瀬の思考回路は混線状態だった。



しかし途中ではたと、とあることに気がつく。






「俺、自分から名乗ったっけ?」





























「目が覚めた?」


ぼんやりと霞む視界が次第に明快になっていく。

少し視線を逸らせばそこには自分の頭を預けた彼女がいた。



「First Name…。」

「おはよう。すこしはすっきりした?」

「…いま、何時だ?」

「午後三時過ぎ。二時間ぐらい寝てたよ。」

「そうか…。」


身体を起き上らせ、身なりを整える。

ボタンを締め、ネクタイを探しているとするりと首にそれが巻かれた。



「私が結んであげる。」


にこにこと楽しげに笑いながら手を伸ばした。


「そういえば玲二が寝てる間に早瀬浩一が来たよ。」

「早瀬が?」

「うん。誰だって訊かれたから玲二の飼い猫ですって言ったらかなり動揺してた。」

「遊ぶな。」

「だって面白かったんだもん。」


ごめんね、と笑いながら謝る。

だがその表情は悪びれるというよりは楽しんでいるようだった。


「社長から書類を渡すように言われたみたい。テーブルにあるのがそれ。」


はい、終わり。と言ってネクタイを結び終えるとポンと軽く肩を叩いた。

よく出来たと褒めるように森次はFirst Nameの頭を撫でた。


「他には何も話してないか?」

「うん、何にも。」


頭を撫でながら、額にキスを落とす。


「早瀬以外は誰も来ていないんだな?」

「早瀬くんだけだよ。ほんと彼、間が悪いよね。」

「そうか…。」

「なに?嫉妬?」


覗きこむように森次の顔色をうかがう。

だが森次の顔をは不満や嫉妬を映し出してはいなかった。


「お前は私の飼い猫なのだろう?勝手に余所に行かぬよう躾けているつもりだが…違うのか?」


頬を包むように覆われる。

それに手を重ね、First Nameは微笑む。


「心配なら、もう一度躾け直したら?」



その笑みにつられるように森次も笑みを浮かべると、唇を重ねた。



気まぐれなくせに従順な、私だけの愛玩動物。






















***

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